02
「うあー…!」
タオルに顔を埋めて唸る。
それと一緒に汗まで吸い取ってくれるので効率がよい。
「紗月ちゃんに会いてえ…」
合宿が始まってから二日、メールも電話もしてないわけだが正直限界がきそうだ。
夏休みが始まってからメールや電話しかしてないので余計にそう感じる。
誰か俺に紗月ちゃんをください。
わりとガチめにそう思ったとき隣に立つ影が。
「高尾くん!お疲れ!」
「あー…お疲れーっす」
お前じゃねーよ!!心の中でそう悪態をつきながらも顔に出さない俺、すげえ。
マネージャーの中川さん。なんか、…俺を狙ってるっぽいです。
「大変だよねー、秀徳の合宿!それに誠凛との合同合宿になっちゃったし」
「あーそうっすねー、まあ楽しいっすけど」
誰かこいつどっかにやってくれよ!なんて思っても宮地さんにしかり大坪さんにしかり哀れみの目を向けてくるだけだ。助けてくれ。
「高尾くん、ちょっといいですか」
「ひゃあ?!」
そんな俺に女神とも呼べる救いの手を差し伸べてくれたのは黒子だった。
俺の方へ寄ってきたのは見えていたが、中川さんは当然鷹の目なんて持ってないので盛大に驚く。
「ちょっとお話したいことが」
「あー!うんすぐ行くわ!つーわけですんません俺ちょっと」
「あっ…」
中川さんは俺に手を伸ばすがそれを回避して、黒子の方へ走った。
体育館から出て、ため息を吐く。サンキュー助かった、と黒子に告げれば黒子は大変ですね、と言った。
「顔が整ってるっていうのは」
「いや俺フツメンだから!」
「コミュニケーション能力がカンストしてて特技バク転のどこがフツメンなのか教えてください」
あれ、黒子ってこんなキャラだったっけ。
でも助けてくれたことにはマジ感謝。今度マジパのバニラシェイク奢ることを心に誓う。
「君がしっかりしないと高科さんは手に入りませんよ」
「へっ?それどーいう」
「赤司くん、…キセキの世代でキャプテンだった人です。彼は高科さんのことを大層気に入ってますからね」
「………へ?」
赤司ってあれだろ、あのめっちゃ髪の赤いやつだろ。
緑間が唯一怯える存在だっていうあいつだろ。
そんでめちゃくちゃ頭よくて、そんで顔も整ってて、金持ちなんだっけ。どこの二次元チートだよ、爆発しろ。
「えっ?マジで?冗談だろ」
「僕、冗談苦手なので」
それはつまり肯定の返事だ。
「やっべえ勝てる気しねーよ…」
「まあ頑張ってください。誠凛の先輩がたは高尾くんのこと応援してますよ」
「マジで?!ていうかやっぱばれてんのね!うおおお恥ずかしい…!やっぱり合宿紗月ちゃん来なくて正解だったかも…」
普段通りの行動を紗月ちゃんにしていたら確実に冷やかされる。
俺は別に構わないけど紗月ちゃんに嫌がられたら生きていける気がしない。
「俺赤司に勝ってるとこあんのかな…」
「あると良いですね」
そこはきっとあるよとか励ますとこじゃねーの、と思ったがコイツは冗談が嫌いだった。
そろそろ戻りましょうか、と黒子が体育館の方へ目をやる。
そういえば休憩時間はそろそろ終わりのはずだ。
「あー…俺も帝光入学してりゃあなぁ…」
卒業した中学校を思い出す。もちろん不満は今更ないが紗月ちゃんに関しては今更思っても仕方がないことを口にせずにはいられなかった。
なんか俺泣きたくなってきた黒子ー!なんて叫びながら抱きついてきた高尾くんを横目に僕はくすりと小さく笑った。
「(赤司くんは妹のように気に入ってるんですけどね)」
この程度で諦めるぐらいなら高科さんは諦めて貰わなければ困る。
僕だって高科さんのことが“妹のように“好きなのだから。