03
次の日、昼休みや休み時間が空いておらず結局放課後に渡しに行くことになった。
『うええ…』
今日も今日とてギャラリーが凄い。
体育館に入ろうとする気持ちを根こそぎ奪われそうになるけど、渡すと言ったのだから渡さないといけない。
私は覚悟を決めて、人混みに飛び込んだ。
『大坪先輩』
「ん、高科か。ちょっと待っててくれ」
そう私に言って大坪先輩は宮地先輩に何かを伝えてこちらに来た。
「すまんな」
『いえこっちも練習中にすいません…』
休憩見計らって来れば良かったな、と今更ながら後悔。
鞄からホッチキスで纏めたルーズリーフを取り出して渡す。
『自分流にまとめて書いてたんでちょっと見づらいかもしれないですけど…、良かったら使ってください』
「必ず渡しておく。すまん、助かる」
『いえ、それじゃあ練習頑張ってください』
踵を返して出入り口の方へ向かう私を睨んでいる人が居たなんて、背中を向けていた私は知らない。
紗月ちゃんが体育館に入ってきたのは練習中といえど分かっていた。なんてったってホークアイだもの!(それと入り口のギャラリーに宮地先輩の額に青筋が出ていたのも確認済みだ)
「大坪さーん!紗月ちゃん何の用だったんですか?今度の夏合宿のことですか?」
「ああ…、これ渡しにな…。ていうかお前高科のことだと目敏いな」
「からかわないでくださいよー…」
俺が口を尖らせると大坪さんは「悪い悪い」と楽しそうに笑った。ぜってえ遊ばれてる…。
「もー…!俺は良いっすけど紗月ちゃんにはしないでくださいね!」
「ああ、分かってるよ」
うわあすげえ安心する。なんだろう、…パパ?ほんとかっこいいときはかっこいいし頼りになるし。マジ大坪さんは秀徳のお父さんだと思う。
「そうだ高尾、高科は夏合宿参加しなくなった」
「え?!なんで!?」
「中川が入っただろう?だから敢えて臨時でマネージャーをとらなくてもよくなってな…。高科には悪いことしたな…」
マジかよ…!俺、めっちゃ楽しみにしてたのに…!
「うあー…そうなんっすか…」
「ああ…。そういえばお前、後ろ」
大坪さんが俺の後ろを指差す。
はい?と間抜けな返事をしつつ後ろを振り返ると、素晴らしく笑顔の宮地さんと苦笑いの木村さんが居た。
そこで俺は気づく。ローテーションで宮地さん監督のドリブル練習をしていたことを。
まだ回ってこねーっしょなんてタカを括っていたがどうやら俺の番がきていたらしい。
そしてもう一つ気づく。…あ、死んだ。俺、死んだわ。
「なァにさぼってんだ…?レギュラーとられても知らねぇぞ!!」
「すいませんっしたあああ!」