02
「おはよー紗月ちゃん!」
肩を叩かれて振り返ると頭にカチューシャをつけた高尾くんとその後ろに真ちゃんが居た。
『あ、おはよう二人共』
「紗月、髪が整ってないのだよ」
『えっ?!ウソ!?』
朝、鏡見て確認したはずなのに…!!
横で二つ結びにした髪を勘で整えてみるもののどうやら場所が違うようで。
ため息をつく真ちゃんに後ろを向くように言われた。
『はーい…』
ということは後ろ…?うわー家から学校まで汚いままで来ちゃったのか…。
がっくりと肩を落とした私の髪の毛は解かれて後ろで縛られているようで何されてるんだろう…なんて思いながら大人しく待っている、と。
「ほいっオッケー!」
『え…』
振り返ればすぐ後ろにばっちし!なんて満足げに笑っている高尾くんが居て。
あれ?いじってたの真ちゃんじゃなかったの…?
「お団子にしちゃった、よかった?」
『あ、ああありがとうございます…』
「ぶふっ!なんで敬語!?どーいたしましてっ!」
うあ…高尾くんにも寝癖見られた…。(多分さっき挨拶したときにもう気づいていたんだろうけど)
しかもそれまとめて貰うとか私女子失格じゃないですか…。
「え、なんで落ち込んでんの紗月ちゃん。お団子気に入らなかった?」
『いや全然そんなことないよ!ありがとう高尾くん』
「そ?ならいいけど。あ、そういえば紗月ちゃん昨日体育館で監督と何話してたの?」
あー…一軍の調整合宿のことで、そこまで言ってはっとする。
…これ確か中谷先生に秘密って言われたことじゃなかったっけ。
「え?紗月ちゃん来るの?」
『ごめん今の嘘です聞かなかったことにしてください!』
「ごめん無理です!ほんとに来んの?え、めっちゃ嬉しいどうしよう真ちゃん!あれっ真ちゃんどこ行った?!あっ、くっそおいてかれた…!」
高尾くんに見つからないようにどっか行くなんて真ちゃんもミスディレクションの才能あるんじゃないかな…。
あ、今なら逃げれそう。私はそろーっと高尾くんのそばから離れようと試みた、が。
「紗月ちゃんは俺と一緒に行こっか?」
当然私にミスディレクションの能力があるわけでもないし、高尾くんのホークアイから逃げることも出来やしないのでがしりと笑顔の高尾くんに腕を掴まれて逃げ場をなくした。
結局二人で並んで歩きながら教室までの道のりで洗いざらい吐かされた。
高尾くんが「紗月ちゃんの料理楽しみー」なんて言っていたので『そんな特別うまいとかじゃないからね!』と言っておくのだけは忘れなかった。
「ほんっとにすまん」
「すまん、高科」
『へっ…?』
そしてそれから少し経ったある日。
人と場所はこの間呼び出されたときと同じで英語科教室で中谷先生、大坪先輩、そして私だ。
ただしシチュエーションはまったく違っていて、なぜか二人に頭を下げられていた。
『えっと…、何事ですか?』
「お前に頼んどいた臨時マネージャーの話、無しにしてくれ」
『え…!?』
「実は昨日マネージャー志望が仮入部してきてな…」
働きも中学時代に別の部活でマネージャーをやっていたらしく手際は良いし、成績もクリアしているらしく正式入部を断る理由がないのだと。
「それで合宿に正規が居るのに臨時マネージャーが居るっていうのもやっぱりね」
『あー…それじゃあしょうがないですよ、気にしないでください!』
「高科の時間を無駄にしてしまってすまない…」
大坪先輩は眉を下げてそう謝る。
だけれど無駄と言ったって私は献立を考えて頂けなのだからそんなもの微々たるものだ。
『私帰宅部なので時間は割とあるんでほんと、気にしないでください』
「…すまん」
『大丈夫ですよ。あっ考えてたメニュー、渡しといた方がいいですよね…。何か参考になればいいと思うんですけど…』
「そうだな。貰えるなら助かる」
『じゃあ明日持ってきますね、家にあるので…。じゃあ合宿頑張ってくださいね』
失礼しますと告げて教室を出る。
つまり合宿の日にち分暇になってしまったというわけですか…。
『何しようかなあ…』
それと仕方のないことだけれど、高尾くんに結果的に嘘をついたことになってしまった。
あー…なんであのとき口滑らせちゃったの私のばか…。
2012.05.21 修正・加筆