01
「あっ紗月ちゃん!いーとこに!」
そう叫びながら寄ると紗月ちゃんはどうしたの、とふんわりとした笑顔を見せた。
今日も可愛いなあもう!
「タオル!サンキュー!」
肩からかけていた鞄から紗月ちゃんに借りていたタオルを取り出して渡す。
『あ、ううん。どういたしまして』
ごめんね洗濯までしてもらっちゃって、貰った手触りで分かったのだろう。
紗月ちゃんが申し訳なさそうに眉を下げてタオルを胸に抱えた。
「なんであやまんのー、こんぐらいトーゼンっしょ!っつーか今日の試合来る?」
『あ、うん準決勝は行けないけど決勝は行くつもり』
「そっか。どっちがあがってくんのかねー、正邦と誠凛」
先輩や監督の意見は専ら正邦なんだけど紗月ちゃんはどう思う?、そう聞くと紗月ちゃんは少し悩む素振りを見せた。
『わたしは…誠凛に勝って欲しい、な』
「どっちが勝つかじゃなくて勝って欲しいんだ?」
『だってテツくんは昔の仲間だし…。あ、もちろん誠凛対秀徳になったら秀徳に勝って欲しいからね!?』
焦りながら必死に弁明する姿はやっぱり可愛い。俺は口元を押さえた。押さえねーと笑いそうなんだもんやべえ。
『た、高尾くん?』
「ごめ、大丈夫だってぜってー勝つから!」
『…うん、応援するね』
火神は飛ぶと信じていた。あいつは必ず自分の限界を越えてでも俺を止めようとするだろうと。
だからフェイク、決めたと思った。
そうしてそれは火神を信じた黒子に弾かれてボールが床についた。
無情にもその瞬間にピピーッと終了の音が鳴った。歓声があがる。
「…」
ああこれが負けか、なんて呆然と思っていると観客のなかに困惑したようなそんな紗月の顔が目に入った。
私、どうすれば良いんだろう…。
どうしよう、でもさっき真ちゃんから待ってろなんてメール来てたから一応選手入り口で待ってはいるんだけど。
悶々としたまま私は自分の手をじいっと見つめて待っていた、ら。
見覚えのあるオレンジのジャージに思わずあ、と声をあげた。
『高尾、くん』
「…紗月ちゃん、…ごめん、負けちゃった」
高尾くんは眉を下げて笑いながら言った。
『…どうして、謝るの』
「え」
だって謝ることじゃない。
高尾くんや先輩たちが一生懸命やってたのは知ってるし、だから謝ることじゃない。
それに、
『負けて良かったかもな、って』
「…それ、どういう」
『秀徳にとってじゃないよ!その、…真ちゃんにとって』
中学のときからどれだけ練習に力を入れていたのかなんて知ってる。
居残りだってしてるのも知ってる。
それに裏付けられた自信があるのも。
『だけどね。どうしても勝って当然、みたいな態度が私は嫌いだったの』
「…」
『真ちゃんやキセキの世代の皆はきっと負けるまで自分が全部しよう!って思う馬鹿なの』
だからきっと負けたから、自分の力だけじゃ駄目だと気付くのだろうから。
『きっと次は高尾くんからのパスだけじゃなくて真ちゃんのパスが見れるのかなって。だから、そういう意味で良かったなって』
「…」
『気分悪くしたら、その、ごめんなさい…』
どうしよう高尾くんまったく反応してくれない…!
「あー…うん、別に、気分悪くしたりとかはねえけど」
『…』
「紗月ちゃんめっちゃ良い子だなって」
『え、ええ!?』
なにがどうしてそういった結論に飛ぶのでしょうか…!
ガタブルする私に高尾くんはへらっと笑いながら頭を撫でてくれた。
「そんじゃ真ちゃん探しに行きますかねー」
『あ、…えっとうん』
今度は手が頭から手に移動してきゅっと握られた。
問答無用で握られているこの手にやはり私は何か期待するべきなのか。いやでもそんな烏滸がましい真似はやっぱりやめておこう。