01
俺と紗月ちゃんはクラスが違う。
つまり普段の授業中の彼女は見たことないわけで(いやそれなりに真面目に受けていることはまあ分かる)。
だが一週間に二回、授業中の彼女に会うことができる。
それがつまり、体育。しかもバスケ。
神様はきっと俺に味方しているに違いない。
「真ちゃん抜かせねーよ!」
「なめるなよ、高尾」
まあぶっちゃけたところ俺と真ちゃんの独壇場なわけですよ。
他の奴等も俺や真ちゃんにボールが回ったときはあまり寄ってこない。まあとれるワケねーから当たり前なんだけど。
ちなみに真ちゃんにはスリー禁止令が出てます。ハンデだろハンデ!
ちらりと紗月ちゃんを伺うとわー、と溢しながら俺らの攻防を見ていた。
間抜けヅラだなあ、可愛いけど。
とか考えていたのが駄目だったようで「よそ見をするな」と気付いたときには真ちゃんに抜かれ後ろでシュートが決められていた。
「うわ、ちょっとちょっと!授業なのに本気出しすぎなんじゃね!?」
「授業だろうと手を抜くわけないのだよ」
くっそ、カッコ悪いとこ見られた…!
名誉挽回ってことで本気になったとこで無情にも笛がピーッと鳴ってしまった。
真ちゃんのふっとしたドヤ顔が目にはいった。うわむかつく。
「あーもう負けたし真ちゃんには抜かれるし!」
外にある水のみ場で真ちゃんと休憩中。
「お前は人事を尽くしていないから負けるのだよ」
ちなみに今日のラッキーアイテムはうさぎの人形らしい。
さっきのドヤ顔と相まってさらにイラッとした。
明日あたりのおは朝で真ちゃんのラッキーアイテム鼻眼鏡とかなんねーかな。
『高尾くん、真ちゃん』
そう言いながら紗月が近寄ってくると高尾が紗月ちゃんと呟いた。
『お疲れ様ー、二人ともかっこよかったよー』
「まあ俺は負けちゃったんだけどな」
そう言いながら高尾は俺を睨むがまったく気にならない。
大方紗月に負けた姿を見られたくなかったのだろう。ざまを見ろ。
「俺は次の試合があるから行くのだよ」
そう言うと紗月はえっと声をあげた。
いい加減二人きりに慣れるのだよ。面倒くさい奴だ。
だからなんで真ちゃんはもう…!
「ねえねえ女子ってなにしてんのー?」
キュッと水道の締まる音がして高尾くんがこちらを見ていた。
『あ、バレー』
「へー、じゃあかなり暇じゃん」
『うん、それにもう終わっちゃったし!高尾くんは?』
「俺もしばらくはねーや、やった紗月ちゃんとお喋りできんじゃん」
へへっ、と笑う高尾くん。
ちょ、それはあの誤解しちゃうんだけど、な。
「あー…!でもマジ真ちゃんに負けたの悔しー…!」
『あはは…でも2点差だよね?凄いね!』
「最後のあれさえ止めてりゃなー」
あーくそっと締めた水道をまた緩めて顔をばしゃばしゃ洗った。
相当悔しかったらしい。思わずふふっと笑ってしまった。
顔をあげて高尾くんがあっ、と声をあげる。
「やべ、タオル忘れた」
『あ、じゃあ私ので良かったらどうぞ』
ちょうど持っていたので差し出すと高尾くんがえっと戸惑っていた。
「紗月ちゃん他の男に使われるのとか嫌っしょ」
『えっ、嫌じゃないよ!嫌だったら言わないよ!』
「嘘は駄目だぜ紗月ちゃん」
いーよ服でするし、なんて言いながら裾を掴んだ高尾くんの顔にタオルを押さえつけた。タオルの下で「むがっ」と声がした。
『確かに他の男の人はやだけど高尾くんだったら良いよ!黙って使いなさいばか!』
ばかはちょっと言い過ぎたか、なんて高尾くんが黙ってしまったのでじりじりと罪悪感が襲う。
そして長いタメがあったあと、これまた長いため息がタオルの下から溢れた。
「…そーいうの、誰彼言っちゃ駄目だかんな」
『あいたっ!』
何故かデコピンをされた。しかも痛い。え、なんで!?
弾かれた部分を手のひらで覆う。
『え、いたっなんでっ!?』
「自分で考えなさーい。ま、タオルはありがたく使うわ、サンキュー」
そう言って高尾くんは私の頭をわしゃわしゃと撫でて体育館の方へ向かった。
私は高尾くんに撫でられた頭を押さえた。
『うあー…!』
多分熱が引くまで体育館戻れない。どうしてくれる高尾くん。
とか人のせいにしていた私は高尾くんも顔を真っ赤にしていたなんて知らなかった。
「(おいおい勘弁してくれよ、紗月ちゃ〜ん…!)」