01
「はああああ…」
それはもう長いため息をつくと大坪さんがどうした、と声をかける。
「恋煩いです」
俺が答えるよりも早く真ちゃんが真顔で答えた。
大坪さんはもちろん、宮地さんや木村さんまでもが目を剥いた。
「ちが、違いますからね!真ちゃんもなに言ってくれちゃってんのちょっと!」
「事実なのだよ」
眼鏡のブリッジを中指であげながらそう答える。
視界の端では宮地さんと木村さんがどうするパイナップルは熟したやつだよな!?とか言ってる。ちょ、おい待て!俺はパイナップルは要らない!そしてなんで大坪さんは狼狽えてんの!?
「いやっていうか!そもそも違いますからねっ!?」
「その焦ってるのが逆に怪しいのだよ」
真ちゃんコノヤロー…!
質問攻めしてくる宮地さんと木村さんをかわしつつ真ちゃんに悪態をついた。
「真ちゃん勘弁してくれよ…」
「なにがだ」
部活が終わり、部室で着替えていると高尾が辟易したように呟いた。
「お陰で今日の部活はいつもの2倍は疲れたんだけど!?」
「良かったな。精神面が鍛えられたのだよ」
ボタンをとめて鞄を手に持つ。扉を開けると何故か俎上に上がっていた彼女が傘を握ってそこに居た。
『あっ真ちゃん』
俺を見て心底安心したような顔をする。…ああ、そういうことか。
「…おい高尾」
なにー?そう呑気に聞く高尾は恐らく居ることが分かってない。
「お前、紗月を送って行ってやるのだよ」
「は?紗月ちゃん?って、紗月ちゃん!?」
部室の奥から出てきた高尾は上半身裸だった。…おい。
紗月の顔がぼんっと赤くなる。高尾は高尾であっと叫んで奥に引っ込んだ。
『え、真ちゃんは!?』
「俺は用事がある。高尾に送って貰え」
『え!?』
小さい声でそう叫ぶ紗月。奥からはバタバタと騒がしい音が聞こえるので大方急いで準備しているのだろう。
横を通り抜けようとすると紗月が俺のシャツを掴んだ。
『真ちゃん…!』
紗月は俺を見つめるがまったく痛くも痒くもないので紗月の隣をすり抜けて用事もないのに家と反対方向へと向かった。
真ちゃんのバカ…!颯爽と去っていくその背中を睨む。
馬鹿なんじゃないのあいつ頭良いくせにさ!
「お待たせ!…ってなにしてんの?」
『あっ、の…や、なんでもないデス…』
高尾くんの視線に耐えきれずきゅっと傘を握った。
「うわー降ってんなー…。じゃ、…帰る?」
『…うん』
んじゃ行こ、そう言って高尾くんは自分の傘を開いた。