02
「あっちぃー…」
汗まみれなシャツの首もとをぱたぱたとさせてシャツの中に空気を送り込む。
気休め程度だけれどそれでも幾らかはマシだ。
はーもうさっさと着替えよう、マジで。
そんな気持ちで部室に向かう足を早めたら前方からこちらに走ってくる影が。
『あっ高尾くん!』
「紗月ちゃん?どったの?」
紗月ちゃんは俺の前で止まって少し上がっている息で喋り出した。
『真ちゃんにノート借りようと思って来たら部室の鞄の中っていうから取りに来たの』
「へー勉強すんだ」
『帰宅部だもん、暇だよー』
「そっか、俺も部室に行くから案内しようか?」
そう言うと紗月ちゃんはほんと!?と食いついた。
どうやらバスケ部の部室を分かっていなかったらしい。彼女曰くいざとなったら人に聞くつもりだったらしい。
それで一緒に行っちゃったのが間違いだったのかもしれない。
扉を開いて俺は固まり、紗月ちゃんも固まった。
「やべ…!」
「…」
小さくそんな言葉が聞こえるがもう隠しようもないだろうに。
怒るより何よりあーあ…、と素直に思った。
現在進行形でずたぼろにされているシャツに、切り刻まれていく予備のバッシュ。それは間違いなく俺のもので。それともう一足のバッシュと見覚えのないタオルは多分真ちゃんのだろうなあ。
こうされた原因はきっと昨日発表されたレギュラーのメンバーに一年の俺と真ちゃんが入っていたことなのだろう。
そりゃまあ入部したての一年が二年、三年飛び越してレギュラーとったらイラッとするわなあ。
だからって、さあ。
どうすっかなあ…なんて思っていると紗月ちゃんが声を出した。
『それ、誰のですか』
静まりかえった部室に響く驚くぐらい冷たい声。
え、この声誰だっけ。まさか紗月ちゃん?
「っ…」
『自分達のじゃないでしょう、それ。緑間くんと高尾くんのじゃないですか』
先輩にも戦くことなく声を発していく。
え、マジで誰だってこの子。いやだって俺の知ってる紗月ちゃんってもっとこうふわっとしててさあ。
「っ、俺らだって死ぬ気で努力してる!なのに、!」
言いたいことは分かるよ、先輩。
結局いくら努力したって恵まれないって、才能のあるやつに結局越されてくって言いたいんだろ。
「お前には分かんないよな高尾!」
先輩がもう泣きそうな顔をして俺に言葉を刺した。
でも俺の心のなかが泣いているなんてきっと先輩は知らない。だって先輩はエスパーでも超能力者でも読心術か使えるわけでもない。
「俺らの気持ちなんて緑間や高尾には分かんねえよ!だってお前らには恵まれた能力があるんだから!何にもしなくたって求められてるんだから!仕方ないだろ!?」
『どこが仕方ないの!』
先輩の声に被せて紗月ちゃんが叫んだ。
『なにもしてないの?高尾くんや真ちゃんがなにもしてないの?こんな汗まみれの高尾くんがどれだけ練習してるか見て分かんないの!?
確かに高尾くんや真ちゃんは恵まれたものを持ってる。だけど、最初からそれがほいほい使えるわけないじゃない!』
そうだよ、俺だって、はじめは意味が分かんなかったんだよ、この能力。
お前には分かんないよな高尾、だってさ。
分かるに決まってんじゃんかチクショウ。
『練習したから、たくさんたくさん練習したからだからそれを武器にできるの!
諦めるのならそれは貴方たちの勝手だし、誰にもきっと止める権利なんてないけどその理由を高尾くんのせいにしないで!』
紗月ちゃんの叫びに先輩たちは俯いたり、顔を歪めたり様々だ。
そんな光景を見ながら俺はやっぱ神様ってひどく残酷なんだろうなあ、と思った。
だってそうじゃないか。頑張った人に必ず一番をくれるとは限らないんだから。