あの子を攻略する方法 | ナノ



  あなたに花を、


俺は頭が痛くなってきた。断じて酒のせいではない。

「俺でいいんすかねえ…」

何度目の呟きだこれは。俺が「はいはい」と返すと「宮地さん聞いてないでしょ!」と絡み酒にかわる。ちっ、めざてえ。
こっそり高尾の前にある酒に水を足す。

「いいもなにも今まで一緒に居るんだからそれが証拠だろ」

そして何度目かの返答に高尾は「別にそれは居るだけでもいいじゃないっすか」となんでそんなに懐疑的なんだ。

「なに、お前は高科と結婚したくねえの」
「したいっすよ!そりゃ!あなたとか呼ばれてみたいっすよ!俺が奥さんとか呼んだら絶対紗月ちゃん照れますもんかわいい!」
「…」

酒の水割りのタイミング遅かったかもしれねえわ。
そこまで思ってんならしろよ、と言っているのに肝心なところで用心深くて臆病でチキンでヘタレ野郎なこの馬鹿な後輩は一体どうすればいいんだ。

「…だって結婚って一生に1回だけでいいじゃないですか」
「まあ1回でこの人だってやつに出会えるのが好ましいな」
「その1回が俺でいいんだろうか、って思うと」

言えなくなっちゃうんです、と。
思えば昔からそうだった。付き合うときだって(どうやらそのときは別の思惑が働いていたらしいが)うだうだと、まあ焦れったかった。
今回は二人の意思だけだというのに一体なんだってこんなに焦れてるんだ意味が分からない。

「だって紗月ちゃんあんなにいい子なんすよ、もしかしたら俺よりもいい奴に出会いかもしれないじゃないですか」

俺のわがままで縛ってもいいんだろうか、と高尾は机に突っ伏して呟く。

「そんなたらればの話したって意味ねーだろ。今まで付き合ってきてんだ、一番だっていう自信もて。お前がなんでそんな不安なのか知らねーけど、高校のときからお前らはお似合いの二人だぞ」

主に相手を思いすぎている点について、とは言わないでおく。
結構小っ恥ずかしいことを言ってしまったと思ったので酒を一口含む。
………なんか言えよ、高尾。と思っていると隣から「すー…」と穏やかな寝息。
ぶちりとなにかが切れる音がした。

「寝てんじゃねーよ!潰すぞ!!」

呑気に寝ている頭を容赦なく引っぱたいた。


『わー…どうしたんですか、和成くんがこんなに酔うなんて』

原因お前だけどな、とは男の情けで口を噤む。
ある意味、言葉通りに潰してしまった高尾を自宅へと送り届けると高科が出迎えた。
確か一年前ぐらいから同棲してるとかしてないとか。

「知らね。ストレスたまってんじゃねえの」
『すいません、宮地先輩。送ってもらっちゃって』
「別にいーけど、これどうすりゃいいの」

背中でぐでりと手足を伸ばして寝ている高尾の処理を求めれば『…中まで運んでもらってもいいですか?』と言ってきた。
まあ無理だろうなと、納得しつつ靴を脱いで部屋にあがる。
高尾の靴は高科が脱がせて俺の靴と一緒に玄関に揃えていた。

『ソファーに投げといてください』と高科に言われたので言葉通りに投げる。しかしここまでされて起きない高尾もある意味すげえ。
それを見た高科に苦笑いされたがお前が言ったんだろ。
俺はソファーを背に、そのままラグの上に座った。

『宮地先輩泊まっていきますか?もう遅いですし、お詫びになるかよく分かんないですけど』
「あー…」

時計を伺えばもう12時も間近である。
今から帰るのめんどくせえな、とは思ったもののこの万年付き合いたてカップルみたいな二人の家に泊まれば朝から砂糖を口にぶちこまれること間違いなしだ。

「いや、遠慮しとく。それより高科」
『はい?』

高尾に水、俺に麦茶を用意してソファーの前にある机に置いた高科はそのまま俺のはす向かいに座った。
その高科に俺は問う。

「お前ら結婚しねえの?」
『…えっと、どうしていきなりそんなまた』
「普通に結婚してそうな生活送ってるしな、いつすんだろと思って」
『んー…』

高尾のことは伏せて聞いてみる。
ここで気を回してる辺り、ほんと俺は損な役回りだ。
普通ここは幼馴染み兼元相棒の緑間とかだろうよ。しかしあいつにそんな役回りができるとは微塵も思わないあたりが悲しいところ。

『和成くんがどう思ってるのか知らないんですけど、』

そこのバカはお前と結婚したいそうだよ、と言いたくなったがぐっと堪える。

『私は…和成くんがしたいなら』
「…へえ」
『二人ともお金に余裕があるわけじゃないし、それに今ちゃんと幸せですしそれに…』

結婚しちゃったら和成くん逃げれないでしょう。高科は眉を下げて笑った。
法的拘束力をもってしまえばきっと逃げないし逃げられない。だからしてもしなくても良いのだと。
ほら、やっぱり似たもの同士じゃねえか。

『したくないわけじゃないんですよ、でももし和成くんが私に嫌気がさしたのに別れられないなんて嫌じゃないですか』
「それにお前の意思はねえのかよ。例えば誰にもやりたくないとか」
『それは私のわがままですから、…っていうのがまあ1割です』
「意外と少ねえなおい」

今ちょっとシリアスだったのにやっぱりシリアルかよふざけんな。

『もうね、多分逃がしてあげれないと思うんです。和成くんのこと凄く好きだから。だからそのへんに関しては諦めちゃいました』
「…で、残りの9割は?」
『そりゃもう、これしかないでしょう』

プロポーズされたいって、女の子の憧れだと思いません?
高科はにっこり笑って言うので俺は「…ああそう、へえ」と随分適当な返事しか返せなかった。
つまりそれ高尾が言えばはい終わり!の話じゃねーか…。もうやだこいつら。

『宮地先輩も自分からしなきゃだめですよー』
「そのへんは…あー、だめだあいつなら自分からしかねない。なんてったって頭が猫のことしか考えてねーからな」
『千雨さん猫大好きですもんね』
「猫のことばっかでたまには構えって言ったら清志うるさい!って言われたからな…」


自分の彼女の愚痴を聞いてもらっていたら時計の長針が1週していたので慌てて高尾宅を出た。
あいつは果たして起きているのか、いや猫と遊んで寝落ちの可能性大。

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