あの子を攻略する方法 | ナノ



  03


ちょっとムカムカする。いやムカムカはちょっとおかしい、モヤモヤすると言った方が適当か。
その原因はひとえに俺の前に座る紗月ちゃんだ。
なんで伊月さんとか日向さんとかと仲良く喋ってんのかな紗月ちゃん!
いや冷静に考えろ、俺。それ自体にはまったく問題はない。問題があるのは俺自身の感情に問題があるわけで。
てゆか彼氏でもないのになに言ってんの俺。どんだけ心狭いんだよ。

「(うぁあああ…もう俺マジ心狭…!)」
『高尾くん?どうかした?』

頭をがしがしと掻く俺を心配そうに下から覗き込んだ紗月ちゃん。
思わずうわっと叫んでのけぞって後ろに倒れてしまいしかも机で足を打った。

『高尾くん!』
「いって…!」

あーもうマジかっこわる…。痛む頭を押さえながら起き上がる。やっべえマジ痛い。何がと言われたら心が折れそうです、俺。
紗月ちゃんはわざわざ立って俺のほうへ駆けてきてくれた。

「だいじょーぶ、驚かせてごめんな」
『ほ、ほんとに大丈夫?』
「だいじょーぶだって!そんな紗月ちゃんは心配しなくて良いって」

俺がおろおろした様子の紗月ちゃんを宥めさせるために言った言葉に紗月ちゃんは顔を固めた。え、なにこのまずい雰囲気。

『…心配ぐらい、させて』
「…えーっと」
『心配するよ高尾くんらもん!』

ん?なんかおかしくね?と思ったときには紗月ちゃんはうえ、と溢してぼろぼろ泣いていた。
えーっと、とりあえず。

「誰スか、紗月ちゃんに酒呑ませたんは!」

ぎゅうっと止める間もなく抱きついてきた顔を真っ赤にした紗月ちゃんをひっぺがそうと試みるものの酔っ払いの力って怖い。まったく離れてくれない。
ああああ死ぬほど嬉しいけどこれはやばい!色んな意味で!

「誰っていうか、…紗月ちゃんウィスキーボンボン食べたのよ」
「酒弱っ!!!つーかなぜここにウィスキーボンボンが!?」

どうやらそれは黄瀬が持ち込んだものだったらしく紗月ちゃんも一つか二つほど頂いたらしい。

「黄瀬のばかやろう!」
「えっいきなりなんなんっスか!?」
『高尾くんぎゅー』
「っ…」

なんかもう、勘弁してくれ。恐らく俺の気持ちはもう周囲の皆さんにはバレバレのようだ。
伊月さんは「良かったな高尾。はっ!…よからぬ…いや駄目だ」「伊月黙れ」伊月さんのギャグは不発に終わったようだが今日ばかりは日向さんの意見に賛成だ。伊月さんすいませんけど黙れ。

「たかおくん…?」
『…』

あざとい。紗月ちゃんその上目遣いはあざといぜかなり。効果は抜群だ、使う相手さえ間違えてなければ。…間違えてないけども!
俺のHPはもうゼロに近いです。誰か回復薬をくれ。

『すきぃー』
「っ〜〜〜!」

あ、死んだ。俺は顔に熱が集中するのを感じた。
やばいどうしよう、可愛い。えへなんて笑うなんて反則だ。しかも好きって!好きって!ああもう可愛すぎる!もし二人だけだったら手を出しかねない。いや確実に出す。そこに自信を持つなとどこからか聞こえてきたが俺は持ち前のスルースキルで無視をした。

「…真ちゃん!帰ろう!」
「は?なん…おいそれはどうしたのだよ」

俺に抱き抱えられたままの紗月ちゃんを見て真ちゃんが怪訝な顔をする。

「酔っぱらったみたいな」
「お前がついていながらなぜそうなる」
「俺のせいじゃねーよ!黄瀬のせいだっつの!」

俺は飼育員か。とりあえず先に帰るので誠凛さんに俺と紗月ちゃんの分のお金を渡す。
真ちゃんは真ちゃんで黒子たちにお金を渡していた。


そしてさあ帰ろうというときに問題が一つ発生した。

「紗月ちゃん!俺チャリ取りに行かなきゃだから離れて?」
『…やだ』
「紗月、我が儘を言うんじゃないのだよ」
『やだー』

泥酔し駄々っ子と化した紗月ちゃんとオカンと化した真ちゃんの攻防が5分ぐらい続いている。
腰に巻き付いた両腕と前身に感じる紗月ちゃんの体温とかもう正直俺の理性がもうなんか色々やばいので早く離れて欲しいんだけど!
真ちゃん頑張って!そう心のなかで願うにも真ちゃんの方が折れてしまった。

「ここで待っていろ」

はあ、とため息をついた真ちゃんはチャリアカーの置いてある方へ歩き出した。
やめてこんなべろんべろんな紗月ちゃんと二人きりとか…!
もう泣きそうになった俺に紗月ちゃんはきゃっきゃっと更に抱き着く。

「紗月ちゃん?あの、あんまりくっつかないで欲しいなー…なんて!」

慎重に、言葉を選んだつもりだった。だけれど紗月ちゃんは見る見るうちに顔を歪ませた。

『たかおくん、わたしのこときらい…?』

やめてそういう質問。この質問、公平なようで案外ずるいんだからさあ!
願わくば紗月ちゃんが記憶を消すタイプの人だったら良い。

「…好きだよ」
『わたしもすきだよー』

ああくそ二人きりなのに無防備なことしてくれちゃってさ!もうそこまで言っちゃったら何されても文句言えねーだろ。
俺は紗月ちゃんの両目を手のひらで覆って、慌てる紗月ちゃんのおでこにキスを落とした。
ああよくやったよ俺…。
よくぞ口にキスしなかった!自制が効いてよかった!嫌われるなんて堪ったもんじゃない…!

キュッとブレーキを踏んだ音と一緒にとんだヘタレ野郎なのだよ、なんて呆れたような声と気がしたがとにかく俺は何も聞こえません!
そして紗月ちゃん早く寝てくれ!俺は回復薬ずっと使ってるけど間に合わねえよ!

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