あの子を攻略する方法 | ナノ



  Complete!


「紗月ちゃん、お待たせ!」
『お疲れさま、高尾くん』

体育館の玄関で待っていた私の元にに駆け寄ってきた高尾くんは私の横にしゃがんだ。

「暇だった?」
『練習見てたから楽しかったよ。高尾くんドリブル速くなった?』
「あー…紗月ちゃんが見てたからじゃない?」

愛の力ってやつだね!
愛嬌たっぷりの笑顔で笑う高尾くん。
付き合い出してそろそろ一ヶ月経つが彼はこういうこと言うのが多い。お陰でちょっぴり耐性がついた。それでも照れそうになるのでぐっと奥歯を噛み締めて耐える。

『…じゃあ私大会とか試合中、高尾くん見てなきゃいけないの?』
「むしろ聞きたいのは、見ててくんないの?」
『み、見るけどそ、その…恥ずかしいです』
「俺は嬉しい。っと、…雨激しくなってきたし帰ろっか」

立ち上がった高尾くんが傘立てに置いていた傘を手に取って開く。
そして高尾くんはそのなかに私を呼んだ。


「あー雨やべーわ、紗月ちゃん平気?」
『雷鳴ってないから大丈夫。それに…高尾くんと居るから平気』

高尾くんが真ん中で傘を持っているため、手は繋いでおらず代わりに肩に頭をこつりと当てた。
高尾くんからなんの返事もなくて、目をあげるとこちらをじいっと見つめる目とぶつかった。え、なんでガン見。

「………なあ、いつまで高尾くんなの?」

えっ、と間抜けな声をあげる私をグレーの瞳が私を射抜く。
あ、これは逃がしてくれない気がする。高尾くんの背後に鷹の守護霊が見える気がする。気のせいだと思いたい。

「俺、いい加減名前で呼んでほしいんだけどなー。そろそろ一ヶ月ですよお嬢さん」
『だ、って今更…』
「恥ずかしいし、って?」

分かってるならなんで聞くの!心の中で叫んでも高尾くんが到底分かるわけはない。

「紗月ちゃんのそーいうとこも可愛いけどね、俺は心を鬼にするって決めたんだよね。…だからさあ、もっと恥ずかしいことしたら恥ずかしくなくなるんじゃね?」

え、と思ったときにはもうすぐそこに高尾くんの顔があった。

とん、と口が触れる。

そしてそれが何か分かったときには既に高尾くんは少し距離をとっていた。それでも動けば触れそうなすぐそこだけど。

「………目ぐらい瞑ってよ、俺が恥ずかしいじゃん」
『え、あ…』

言われて目を閉じると遅えよ、と呟いたのが聞こえてそしてまた重なった。

「………で、恥ずかしくなくなった?」
『か、…か、和成くん』
「ん、なに?紗月」

そんないきなり呼び捨てなんて不意打ちもいいとこである。しかも声と表情が、とびきり甘い。
見る見るうちに私の顔は赤くなり、和成くんはにぃっとイタズラが成功したような顔をする。

「まあ、くん付けでもいっか。それまでは俺もちゃん付けかな」
『………くん付けしなかったら呼び捨てされるの?』
「うん」
『…ぜっっったいしない…』

そう誓った私に和成くんが「なんでよ?!」と叫ぶ。

『し、しんじゃうもん…』

きっと呼ばれただけでドキドキしちゃって死んでしまうのだ、そうに違いない。さっきだって結構危なかった、絶対死ぬ。
ちらりと和成くんの様子を伺うと、なぜか固まっていた。顔に影が落ちているのだけれど気のせいですか。

「………現在進行形で俺が死にそうだよ!!!」
『なんで?!』


そうこうしている間に着実と家への距離は縮まっていき、もう私の家の前だ。

「じゃ、また明日迎えくるから」
『…うん』

そう言いながら頭を撫でられる。
嬉しくなるのは、仕方ないことだとは思いませんか?
そして、お返しだってしたくなるに決まってるじゃないですか?

「また明日ね!」そう残して去っていこうとした彼を呼び止める。

「なにー?」
『ずっと見てるから、ね!か、かか和成!』


盛大にどもった彼女はまたね!と叫び、恥ずかしさに耐えられなかったようで家の中へ逃げ込んだ。

「あーもう…!!」

俺が唸るようにそう呟いたのをきっと彼女は知らないだろう。

さっきといい今といい、あの無自覚天然可愛い子ちゃんめ!
俺が死んじゃうわ!!!

 




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