02
「えーっと…そうだなー…」
伊藤は天井を仰いで呟く。
「高尾は中学んとき俺に彼女居たの知ってるだろ?」
なぜいきなりここで中学の話が出てくるのか、首を傾げるものの記憶力がそれなりに良い俺はちゃんと覚えていた。
「あー…黒髪のボブの子だろ?え、まさかそれが中川さんとかいうわけ?!」
「いや違うから。で、黒髪ボブの子と別れた理由がさー俺その彼女を兄貴にとられちった、みたいな?」
てへっなんて可愛こぶっているがまったく可愛くないうえに話もドロドロしすぎである。
隣の紗月ちゃんも『え?!』なんて目を剥いている。
「お前自然消滅っつってたじゃねーかよ!」
「同じ中学に通っててしかもこんなにイケメンで一緒に居て楽しい彼氏なのに自然消滅なわけねーだろ」
「自分で言うなよ!つかお前の兄貴やべーわ…、昔からチャラそうだったけどそれはやばいわ」
「だろー?もうさ顔が良くても中身が駄目だからさー!」
『えと、それで伊藤くんと中川さんの繋がりは…?』
逸れてきた話に紗月ちゃんが恐る恐る軌道修正を加える。やべえうっかりペースにのせられていた。
伊藤も気づいたようで「悪ぃ、逸れたわ」なんて詫びを入れる。
「あーえっとどこまで話したっけ…。あ、そうそう、んでゆかりさんは俺の兄貴の彼女でさ浮気っつーか二股っつーか…まあ結局振られたんだわ」
「おおう…」
『…ひどい』
女の子としてはやはり共通する部分があるらしい。
紗月ちゃんが眉に皺を寄せて難しそうな顔をしていた。
「そんで、ゆかりさんは兄貴のことまだ好きでさ」
『えっと、つまり…そのお兄さんに嫉妬して欲しくて高尾くんを利用しようとしたってこと…?』
「ピンポーン。まあ後は自分を捨てた兄貴を見返してやるとか、そんなのもあると思うけど。…高科さん勘いいなあ。ああでも高尾に関しては鈍かったね」
「なんだそれー…」
思わず脱力して椅子に体を預ける。
完全に私情に巻き込まれた感じだ。しかも一番被害被ってるの俺らじゃん。
「高科さんごめん。騙すようなことして泣かせちゃって」
『…ちょっと目瞑ってて』
「ん」
目をつむった伊藤の顔に紗月ちゃんの手が伸びた。