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  君は僕の腕のなか


『…』

むくれた頬とは反対に膨れていたはずの気持ちがどんどん萎んでいく。
ああ、なんであんなこと言ってしまったのだろうと。
後悔が押し寄せる頭にきぃ…、と座っているブランコの錆びついた鎖が軋む音だけが響いた。


『カズには関係ない、離してよ』
「あー…もうだからなんでそーなんのって」

私は腕を掴まれたまま三十分ぐらい言い争いを続けていた。
大学で嫌なことがあって八つ当たりで変なところで突っかかってしまった。
しまった、と思った時にはカズが苦笑いで「どした?」と問いかけきていて。
なんでわかるの、とかなんで怒んないのとか。
なんだかあんな小さいことで膨れている自分がどれだけ小さいのか知らしめられた気がして。
今に思えばただ心配してくれていただけだというのに。

『カズのばか、はげろ』
「女の子がそんなこと言わないの。ていうか的確に傷付くこと言わないでくれる?」
『うるさい。どうせ女の子じゃないもんおっさんだもん』
「だからなんでそうなんだよ…。あーもう」

俺には関係ねえんだろ、とはあと大きなため息が聞こえて心臓が一気に冷える感覚がした。
離してほしかったはずの腕が実際に離されるとひどく心細くなって。

「頭冷やせば」
『っ…カズのばか!!』

小さい頃、いたずらをしてお母さんに家から放り出されたときと同じ気持ちだ。
今にして思えばとんでもない暴言を投げつけて私は二人で暮らす家から飛び出した。


『………嫌われたよね』

きぃきぃと動くたびにブランコが軋む。
街灯だけが照らす公園は静かで、その音だけが辺りに響く。
携帯も持たずに飛び出したから今何時か分からない。けれどしばらくここに居る気がする。
だって帰れない。帰って謝ればいいのにちっちゃなちっちゃなプライドが邪魔をする。
大体謝って、許してもらえるのだろうか。いい加減愛想つかされたっておかしくないような気もする。

『…』

どうしよう。誰かの家に泊めてもらおうかな、と思いたってブランコから立てば「あっ居た!」と焦がれていた声がした。

「なまえ!」
『かず、…なにしてんの』

ああもう可愛くない。突っぱねるような言い方をカズは気にしてない様で「何してるって探してたに決まってんだろ!!」と思い切り怒鳴られた。

『…おこってる』
「はあ?怒るに決まってんだろ」

携帯で何かを操作してから私に向き直った。どうしよう、別れようとか言われたらああでもしょうがないのか。

「こんな時間に一人で飛び出して、なんかあったらどうすんの」
『え』
「携帯も持ってねえし、せめて携帯持ってけよ。ていうか夜中にひとりで出歩くとかマジやめて」

てっきり八つ当たりに怒っているのだと思っていたのにどうやらそっちではなく逃げ出したことにお怒りらしい。

『八つ当たりしたの、怒ってないの…?』
「あ?あー…まあはげろって言われたのはちょっといらっとしたけど」
『…』
「それより家出される方が困るし。家出されるより怒ってくれた方がマシ」

っとにばか、とびしっとおでこにデコピンを一発食らわされた。
おでこをおさえる私に「なんか言うことあんじゃねーの?」とにやっと笑ったカズが言う。
おいで、と手を軽く広げて待たれたので小さな歩幅でゆっくりとその腕のなかへ飛び込んだ。

『心配かけて、ごめんなさい』
「…しゃーねえなあ」

もうすんなよ、と頭を撫でるカズに安心してちょっと泣きそうになったけど見られたくなくて胸に頭を埋めた。
「バーカ」と笑うカズには多分ばれていたと思う。


◎チャットにて萌えたので書いてみました
高尾くんと喧嘩するんだけどなんだかんだ高尾くんが許してくれて「しゃーねえな」っつって頭を撫でてくれる

 




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