ブラックベリー | ナノ



  04




「…」

俺はシャーペンをくるくる回しながら昨日のことを考えていた。


『あっ私用事があるんで名残惜しいですが失礼します!』

ぺこりと礼儀正しく、そして迅速に去っていく彼女に俺たち三人は呆気にとられていた。
小堀が言葉に迷いながらも「あーっと…」と口を開く。

「彼女候補できて良かったな…?」
「…どっっっこがだよ!由孝わけが分からないよ!!」

顔を覆って叫ぶ俺に小堀は「ドンマイ」と苦笑いだ。
なんなんだ彼女にはなれないんですけどって!意味分からん!

「スゲー電波っぽかったな、あの子」
「…顔はすごくタイプだったんだけど」
「お前のタイプの範囲広過ぎるから意味ねーだろ、ソレ」

可愛い女の子は至宝だということがどうやらこの堅物で初心な主将には分かってくれないらしい。心の狭いやつだなあ。

「とにかくあーいう電波みたいなやつには関わらないことにする」
「まあお前がそれでいいならいいんじゃねえ?」
「………あの子やっぱり森山と会ったことあるんじゃないか?」

小堀が俺にそう問うがどうしたって思い当たらない。

「街で見たとかじゃねーの?つかそろそろ部活いくぞ」
「うわほんとだ。行くぞ森山」
「おう…」

結局煮えきらないまま部活に向かった。


(やっぱりちゃんと考えても思い当たらないんだよなあ…)

名前をフルネームで知っていたということは、やっぱり俺のことを知っているんだろう。
街で会ったナンパの子か。(この場合星の数ほど居過ぎて特定はできなさそうだ)
はたまた俺の知り合いが彼女に俺のことを紹介したとか。

でもナンパしててあの可愛さならやっぱり俺が覚えていないわけがないし、紹介されていたんなら俺も知っていなきゃいけない。
………あああああ!分からんマジで!
担任が辞書を使って古文を解説しているが俺は辞書のページすら開いておらずノートも当然、一行も進んでいなかった。


「あ」
『…もっ、』

きっと俺の名前を叫びそうになったのだろうが彼女はここが図書館だということを思い出して慌てて口元を抑えた。
幸い俺達以外には司書さんしかおらず注意されることはなかったが。

『なんで図書館に?!あっこんにちわ!』
「…こんにちわ」

引きつる顔の俺に彼女は気づかない。目をきらきらとさせて俺に問いかけてくる。
国語の教科担当を恨む。なんだって俺を放課後の図書館に行かせたんだ!いやまあ俺が授業中ノートもとらずぼーっとしてたからですけど!

「…辞書を返しに。君は?」
『勉強してるんです。親に無理言って海常に来たので』

そう言って彼女は肩にかけていたトートバッグから自習用のものらしいノートを俺に見せる。
そうまでして海常に来る意味とはなんなのだろうか。…もしかして俺とか。いやないだろう。

「…なあ、君と俺って前に会ってたりするのか?」
『…会ってますよ』
「え、マジで?どこで?」
『…秘密です!愛しの森山先輩といえど言えません!ミステリアスっぽいでしょう?』

あ、やばい電波きた。これは当たり障りのない返事をするに限る。

「…ソウダネー」
『あっなんか嫌そう…。もしかしてミステリアスじゃなくてキュートの方が好みですか?!』
「俺部活あるから!」

ダメだこれはスルースキルが必要だ。しかも相当なレベルの。
彼女は『あっそうですよね…、部活頑張ってくださいね!』とちょっとしょんぼりしつつも笑顔で返事をしてくれた。
……なんか耳としっぽが見えたけど断じてキュンなんてしてない!カワイイなんて思ってない!
黙ってればなあ、とは思ったけれど。

 




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