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「………如月」

名前を呼んだ俺にはびくりと震えた如月のつむじしか見えない。
顔をあげてほしいが無理にあげさせるわけにもいかず、もどかしい思いを小さなため息で一つ吐き出した。

「ごめん」

そう謝った俺に如月はばっと顔をあげた。
こんな言葉でしか顔をあげさせられなくて情けない。しかもあげたその顔は今にも泣きそうだ。
ああ最近こいつのこんな顔しか見てないな、なんて苦い気持ちを味わう。誰のせいかと言えば間違いなくそれは自分のせいだからその苦みは身に染みさせておく。

『そんな…っ、先輩は悪くありません!』
「あの日如月に好きな奴が居るんじゃないかって、それで勝手に傷つけられた気分になったんだ」

高尾の言葉にひどく慌てた様子は、間違いなくそれを肯定していた。
なんだ、俺じゃないんじゃなかったんだ。とひどく落胆していた。そしてその落胆したことに動揺した自分が居て。

動揺を頭の中で無理やり否定して、勝手に傷付いた気分になった。
だからお前も、なんて自分勝手に思って。
そして投げつけた言葉で思った通りに如月は傷付いた。だけれど自分が思った以上のダメージで。


きっと一番ひどい言葉で傷つけた。じゃなきゃあんな顔したりしない。

走っていく背中になにも声をかけることができなかった。
そんなに傷つけるつもりなんてなかった、とそんな顔をさせたいんじゃなかったなんてどの口が言えようか。
俺が傷ついたからお前も傷つけ、なんていったいどこの小学生の喧嘩の論理だ。

「だから、ごめん」
『………でも、それでも先輩がそう思ってしまったのは私の嘘が原因で…!』
「嘘とかもう良いんだ」
『っ…だって』

いいんだ、まだ泣きそうな顔をする如月の頬に手を滑らせる。
泣き顔は見たくない。笑った顔が可愛いと思ったんだ。

「昔とか今とか関係ない。俺にくれた如月の言葉や笑顔は本物だろ?」

好きになっちゃったんだ、と伝えれば如月は目を丸くさせた。
ああ、やっと別の顔をしてくれた。

 




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