ブラックベリー | ナノ



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『内緒だよ?』そう微笑んだ彼女に、俺は何も言えなかった。
そして俺は何も言えないまま『戻ろっか』と言う如月さんの後ろを追った。


俺はすごく悩んでいた。どのぐらいかと言われればここが廊下でなければ頭を抱えて「あー!うー!」と唸るぐらいには。

如月さんには黙っていてくれと頼まれたがこれ言っちゃった方がすぐ解決しそうじゃねえ?
いやでも口が堅いと言ったからには俺が言うわけにはいかないッスよね…。
いやでもいやでも、と考えながら歩いていたら唐突に如月さんが『あ…』と声をあげた。

『………森山先輩』

視線の先には森山先輩と笠松先輩が歩いていた。
こちらに気づいたのは笠松先輩の方が早くて、大きい瞳をさらに大きく開いていた。

くるりと体を翻そうとした如月さんの腕を思わず掴んでしまった。

『黄瀬、くん…?何するの…』

離してよ、掴まれた部分を見つめる瞳がそう語っていた。
だけれど離すのはまだ先だ。森山先輩が如月さんと俺に気づく。

「逃げたって変わんないよ」
『…』
「近くに居たいんッスよね」

如月さんが腕を引き抜こうとするが、そんな力で逃げられるわけない。
早く、森山先輩。如月さん越しにちらりとそちらを向けば森山先輩が笠松先輩に蹴られていた。いや何でだ。

「子供だっていいじゃないッスか」
『でも、嘘ついちゃったから、』
「嘘つかない人なんて居ないッスよ」

だから、ほら。
やっと如月さんの近くに森山先輩が立つ。目は最近していた死んだ魚の目とは程遠い。

「嘘ついちゃってごめんなさい、って謝ればいいんッスよ。そんで言いたいこと全部言っちゃえばいいんッスよ!」

掴んでいた手を解放して、振り向かせる。
あとは俺のやることじゃない。如月さんが『…森山先輩』と名前を呼んだのが聞こえた。


「じれったいなー…ほんとあの二人は」

森山先輩と如月さんの遠ざかっていく背中を笠松先輩と見つめる。

「つか、あんだけ不調なのに何でもないって森山頭おかしいだろ」
「まあまあ…、ほら森山先輩も…ほら、うん…」

どうしよう、フォローの言葉が見つからない…。
段々と言葉尻が小さくなっていく俺に笠松先輩は首を振った。もちろん横にだ。

「あんだけ振り回しといてくっつかなかったらシバく」

ため息混じりにそう呟いた笠松先輩の言葉にああだろうな、と心の中で苦い笑いを零した。

 




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