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笠松先輩には「当事者の話だろーが、お前は余計なチャチャ入れんじゃねえ」と言われたが
「如月さんっ」
廊下で見つけた後ろ姿に声をかけた。こうなればもう当事者に突っ込んだほうが早い。
『黄瀬くん…?どうしたの?』
「森山先輩のことなんッスけど…」
俺が森山先輩の名前を出すと如月さんはびくりと肩を震わせた。
俺は勝手に如月さんが怒っていると思ってたのだけれど、どうやらこれは怯えてる風だ。
「えーと…ここじゃあれなんで、どっか別のとこ行きましょっか、ね?」
『…うん』
「…なんの喧嘩してるか、聞いてい?」
屋上へ連れていかれ、誰も居ないことを確認してから黄瀬くんが話を切り出した。
『…喧嘩じゃないの、喧嘩じゃ』
ただ、ぎゅっと目の前の柵を握った。
『森山先輩に“付き合えるなら誰でもいいんだろ“って言われちゃったの』
近寄るなと言われたことよりも、誰でもいいのだと思われていたことが痛い。
うわあ…、と隣で聞こえる。見れば黄瀬くんがこめかみを押さえて「あいたー…」と呟いていた。
まさに『あいたー』だ。今でも思い出せば痛いのだ。
『私付き合ってくださいなんて森山先輩に言ったことないのに、苦しくなっちゃって逃げちゃった』
後からごめん言い過ぎた、とメールがきたけれど返事を出すのも少し怖かった。
無難にこっちこそすいませんでした、と返事を送ったけれど。
「そっか…。ねえ、如月さんはなんでそんなに森山先輩が好きなんッスか?俺としては女好きってやっぱマイナスに働くと思うんッスけど…」
『…森山先輩とかに言わない?』
「これでも口堅い男ッスよ!」
にっと笑う黄瀬くんを信用して携帯を取り出した。
『これ、…私の中学のときの写真』
「え、………マジで?」
『…うん』
携帯に表示されている写真とそれを持っている如月さんの顔を何度も見比べる。
前髪も長くて、体もお世辞には細いとはいえない肉の付き様。
『太っててそれで根暗だし前髪長いしでいじめの対象だったなあ…。デブとかブスとかよく言われた』
「…女の子ってそういうの激しいよね」
『それに中学生だから、一番そういうの多い時期だったし。でもがんばったんだよ』
そう言って彼女は微笑む。全然写真の女の子と結びつかない。ほんとに別人にしか思えない。
『それで、一年の秋ぐらいかな…。放課後に森山先輩と偶然会ったんだ』
今でも鮮烈に思い出せる、教室がオレンジに染まったある日の放課後だった。