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「…も(り)やま先輩なんか元気ないな!なあなかむ(ら)!」
「…だな。シュートの精度もあんまり」
二年間で培われた対早川翻訳スキルを発動させ俺と早川は森山先輩を見ていた。
森山先輩はぼんやりと、率直に言えば死んだ魚のような目で(元からそんな目ではあるけれど)一心不乱にボールを放っていた。
正直に言おう。すげえ怖い。
当然そんな状態でボールが入るわけもなくガンッと鈍い音をたててゴールから弾かれる。
森山先輩は機械的にそのボールを拾い、そしてぐるんとその目で振り返った。
「…おいお前らちゃんと練習しろよ」
いつもは言われる側の森山先輩がそんなことを言う事に寒気を隠せなかった。
海常バスケ部5番SG森山由孝、あんた一体何があったんだ。
そして遂には、今休憩中ですよと声をかけることはできなかった。
頼みの綱でもある主将と小堀先輩は黄瀬と集まって話していた。ああ…そこも井戸端会議中ですか。
もういいや、と俺は考える事を放棄して体を休めることに専念した。
「………森山先輩、どうしたんッスかね」
「…喧嘩したらしいぞ、如月と」
森山は早川たちから顔を戻して更にシュート練習に取り組んでいたがゴンッと鈍い音をたてボールはネットを通らず後ろのボードに当たっては床に落ちていく。
小声で話す俺たちの声は聞こえていないようだ。
「…笠松先輩、喧嘩って?」
「小堀が探り入れんたんだが…」
「何でもないの一点張り。一応謝罪のメールはしたらしいけど」
お手上げ、とでも言うように小堀が両手をあげた。
一番人当たりの良さそうな小堀が聞いたけれど何でもない、と壁はどうやら分厚く高いらしい。
「うわ…それ一番面倒なパターンじゃないッスか。ていうかどう考えても何かあったでしょそれ!!」
「そんなの俺が知るかよ」
そろそろ真面目に部活に取り組まねばいけない。
もービビリだなあ!と文句ばかりうるさい黄瀬の体に蹴りを叩き込む。
「いってぇ!!!」
「そろそろ練習再開するぞ!スリーメンからだ!!」
痛みに耐える黄瀬をスルーして俺は声をはりあげた。
部員からはい!と威勢のいい声が返ってきたが森山は………何も言うまい。