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ピーッと試合終了の合図が鳴った。海常にとっては、無情にもと枕詞がつくけれど。
私は強ばっていた身体をどさりと椅子の背もたれに預ける。
『負け、ちゃった』
「…ね」
一緒にインターハイ準々決勝を見に来ていた理緒ちゃんと二人で息を吐いた。
息つく暇もない、というような試合だった。
黄瀬くん対相手校のエースという戦いが何度も何度もあった。
周りの人の話によれば黄瀬くんとそのエースはバスケ界では結構名の通った人らしい。なんだっけ、…ミラクルの年代?
最初こそ黄瀬くんは歯の立たない展開だったが、中盤で相手校のエースみたいな動きをし出し、そこで追いつくかと思えばボールをとられてしまった。
私はあまりバスケのこと詳しくないけれどそれでも試合は面白いと思ったし、凄いと思った。
そして、体力が尽きたのか座り込む黄瀬くんが目に入る。ああ、頑張ったんだなって思った。
だけれど私の目は、やはり。
『…森山先輩』
今回の功労者と言ってもいい黄瀬くんや、メンバーを引っ張って最後まで諦めず黄瀬くんを信じた笠松先輩じゃなくて、悔しそうな顔をする先輩にしか向かないのだ。
だからって会いに行ったりしませんけどね!恐れ多くて!
と思いながら外の自販機でジュースを買った帰りに森山先輩にばったり会った。
「………なんで居るかな、お前ほんと」
『えっ、見に来るって言ってたじゃないですか。ていうか今会ったのは偶然ですからね!尾けてたとかじゃないですよ!』
「わざわざ負けたときに見に来るなよな…」
『別に狙ってきたわけじゃ、…って私がこれまでの試合いけなかったの知ってたんですか?!』
「………あ」
それは確実にしくじった、という声と顔だった。
『探してくれたんですか?!ほんとに?!』
「うるさい、可愛い女の子探してただけだ!!」
『先輩かわいい!!』
「もうお前ほんと黙ってくれ…。今俺シリアスモードなんだから…」
森山先輩は頭を抱えて近くにあったベンチに座った。
そうか、先輩にとってはこれが最後の試合だったのか。
「お前最後の試合って思ったろ。違うからな 」
『先輩エスパー?!』
「顔にそう書いてあった。…まだウィンターカップがある。けど、インハイはこれで終わりだ」
勝ちたかった、と呟いて俯く森山先輩の頭に恐る恐る触れる。
手触りのよい黒髪の上で手のひらが滑る。
払われるかと思ったが森山先輩はそのままにしたのでこれはしていいよってサインかな!?と内心びくびくしつつそのまま手を緩やかに動かした。
『凄かったですよ、私はあんまりバスケ分かんないですけど』
「…」
『次があるんでしょう。次があるから負けていいって訳じゃないと思いますけど、次があるから頑張れるんじゃないですか?』
「………」
『今日は勝てなかったかもしれないけど練習を積めば勝てるかもしれないじゃないですか。だから、下むかないでください先輩、私は応援しかできないですけど』
言い終われば、沈黙の時間が流れる。
………あれ、怒った?!
ごめんなさい!!!と謝ろうと思って開いた口は森山先輩の言葉に閉じざるを得なかった。…正確には、閉じたというよりは間抜けに口を開けるしかできなかった。
「…ありがとう、少し元気出た」
『!!』
眉を下げて笑う森山先輩に、私の胸は射抜かれた。
いや当の昔に大穴が空いてますけどね!拡張された!!!
だれか!ギブミーディスフォト!!
英語で頼もうが日本語で頼もうが撮っている人が居るわけなかった。現実とやらはどうやら私に厳しいらしい。