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『もっりやませんぱーい!』
えいっ、と声をあげながら朝っぱらからぎゅっと後ろから抱きつかれた。
もう振り向かなくても誰か分かる事実が切ないよ、俺は…。
『完っ全復活ですよ先輩!先輩が会いに来てくれたからですかね!大好き!あっおはようございます小堀先輩!笠松先輩!』
「ああそう…ヘーヨカッタネ…」
「おはよう、如月さん。熱下がったみたいで良かったな」
「おま…っ朝なんだからもっと慎めバカ!!」
三者三様の反応で如月に対応する俺たち。
俺と間違えて笠松に抱きついたら大変面白いことになるのになあ…。
俺は如月の腕を振りほどくことを諦めて別のことを考え出した。とどのつまり、現実逃避ってやつだ。
目に入るところでは如月が『えー朝じゃなかったらいいんですかー?』「そういうことじゃねえよバカ野郎!」と笠松をからかって遊んでいた。
「そういや今日、体育館の補修工事らしくて部活なしって二人共聞いた?」
「え、そうなのか?」
「うん。監督が昨日伝え忘れてたみたいで。俺が監督に昨日最後に会ったから伝えるよう頼まれたんだ」
今日の放課後なにしようか…、と考えていると脇のあたりのシャツがちょいちょいと引っ張られた。
『森山先輩…、お願いがあるんですけど…』
と珍しく如月が控えめに口を開いた。
『すいません折角できたオフなのに…』
「別にいいよ。どうせ家帰っても寝るかネットで情報漁るかしかないからな」
放課後付き合って欲しいんです、そうお願いされて俺は思わず頷いてしまった。
如月がお礼にと、休憩がてら入ったスタバで奢ってくれたので有り難くそれを飲んで頭を落ち着かせようと試みるが、どうしても「なぜ着いてきたのだ森山由孝」と非難の声が聞こえてくる。
なぜ如月が苦手なのに付き合ってあげてんのかってどこからか聞こえた気がするので一応説明しておこう。
『放課後、付き合って欲しいところがあるんです。無理にとは言わないですけど、お願いできませんか…?』
と、普段あほみたいにうざったい如月が上目遣いかつ控えめなお願いをしてくればまあギャップというものが生じますよね。
そして言わないと忘れられそうだが、如月は可愛い部類に入る女の子なのだ。
当然女の子に弱い俺が勝てるわけないじゃないか!!!!
上目遣いは最強の武器だとはよく言ったものである。最強だった。