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風邪ひくなよ、とお兄ちゃんに言われたのだが、やはりというかなんというか風邪を引いた。
「七度八か…」
私が渡した体温計を見てお兄ちゃんが呟く。
「お前学校休んだら」
『………』
「そんな不満そうな顔したって駄目だ、休め。俺は仕事行ってくっけど、家から出るなよ」
分かったか、と小さい子に言い聞かせるお兄ちゃんにはーい…と返事をしておいた。
そしてお兄ちゃんが出ていき、少ししてから車が走り去る音が聞こえた。
『…よし、』
ベッドから起き上がり壁にかけてある制服を手に取る。
今から行ったらぎりぎりで間に合う…、ぼんやりとした頭でもそれだけは確実に分かっていた。
そして制服に着替えてからふらふらした足取りで部屋を出た。
結果として、HRには間に合わなかったものの一限目には間に合った。
「陽菜ちゃん?!顔真っ赤だよ!」
「如月さん、熱?」
『おはよー…皆…。ちょっと微熱でねー…』
手をあげるものの力が出ずにすぐに下ろしてしまう。
私に駆け寄る里緒ちゃんまじてんし。そしてみんなも心配ありがとう。ふらふらする私の肩を支えるように手を添える。
「熱?」
『うん…昨日、雨濡れて、帰ったから…』
「は?」
後ろから、聞こえたのはあのだいすきな声で。
振り返れば森山先輩がに立っていた、片手には昨日貸した折りたたみ傘となにやら紙袋を携えて。
ああ…今日も麗しいです、森山先輩。傘もすぐに返しに来てくれたんですね律儀です、素敵ですだいすきです。だけれどその眉間に寄った皺はよろしくないです、今すぐ取り除くべきです。
心の中ではどんなに言えても口に出す元気と、なぜだか雰囲気は怖い森山先輩に言う勇気は湧いてはこなかった。
「………お前、置き傘あるって言ったよな」
『ああ、…実は勘違いでして、はい家にありましたよ…』
ほんとはないんでんです、なんて口が裂けても言えない。
なんでだ、森山先輩がちょっと怖い。たぶん気のせいじゃないと思うんだけど。いや、外れてたらいいなとは思うんですがね。こういう予感ってよく当たるっていいますよね!
「え?如月さんいっつも折りたたみしかもってないじゃない」
『…』
おい、…おいちょっと空気を読んで欲しかったぜマイフレンド…。
里緒ちゃんが気まずそうに目を逸している。止めれなくてごめんと雰囲気が語る。いや里緒ちゃんのせいじゃないよ…。
森山先輩から目を逸しているのだがひしひしと森山先輩の方から何かを感じる、何か…暗黒的な何かを。
「里緒ちゃん、ちょっと借りるね」
「あ、ハイ…」
『う、あ…』
私の意思を無視して支えていたのが里緒ちゃんから森山先輩にチェンジする。
うああああ…!森山先輩に手掴まれてる…!嬉しいけど、嬉しいけど森山先輩こわい。