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  08




「…」

休みの日だったけれど、机の中に週明けに提出しなければいけない課題があって学校に取りに来ていた。
校門からやけに今日は人が多いなー特に女の子、と思っていた。それは体育館まで続いていて。
体育館から少し離れた水道のところで、………モデルの人がいた。やばい名前忘れた。

あ、と声を漏らしたのが聞こえたのか彼が顔をあげる。

『あ、…えーと、黄山くん?』
「だから黄瀬だってば!!…ていうか何で君がこんなとこ…、今日休みっスよ?」
『そんな馬鹿じゃないんだけど!…課題取りに来てたの。…練習試合負けたんだって?』

体育館から去る女の子たちがすれ違いざまに呟いていた。「まさか負けるなんて、」と。
私がそう言うと黄瀬くんは顔を堅くした。

「………そーだけど、なに笑いにきたの?それとも慰めに?ぶっちゃけどっちも要らないんッスけど」
『?…なんで私が黄瀬くんを笑ったり慰めたりしなきゃいけないの?負けて悔しがる人を笑うなんてしないし、慰めるなら森山先輩慰めるよ!そんな図々しい真似しないけど!!』
「あ、ごめん。やっぱなんでもないッス」
『いま絶対めんどくさくなったって思ったでしょ』

黄瀬くんは濡れた頭をふるふると振って髪の雫を強引に払う。おおう、さすがモデル。様になってる。
…はっ!つまり森山先輩にやっていただいたらそれはそれは素晴らしい…!

「負けちゃったんッスよね、中学のときのチームメイトが居る学校に」
『…はあ』

え、なんか語り始めちゃったんだけどこれどうすればいいの。ちょっとめんどくさくなったな、と思ったんだけど。

「バスケの試合で初めて負けた、絶対負けるなんてわけないって思ってたのに」
『それで、悔しいと』
「…まあ、はいそうなるッスね」
『負けたことないって凄いね。黄瀬くんってそんなに強いんだ』

私が感心したように呟くと黄瀬くんは目を丸くしていた。え、そこ?みたいな顔。

「…如月さんはちょっとずれてるよね」
『それはよく言われる!でも実際すごいよ、勝ち続けるなんて』
「勝たなきゃダメだったから。負けることは許されてなかったから」
『………なにそれ、面白くなさそう』

率直な感想に黄瀬くんはうん、と呟いた。

「今思えば勝つこと自体は嬉しかったし楽しかったんッスよね。でも試合自体はただの義務で勝つための過程だった。集中はしてたけど、楽しくなかった」
『じゃあ負けた今回は楽しかった?』
「………そう、ッスね。楽しかった、けど悔しいんで次は負けたくないッス!」

にかっと笑った顔は吹っ切れたように見えた。

「おい黄瀬ー!ミーティングす、…なんで居るんだよお前!!?」
『っ、森山せんぱあああああいい!!!』

目をぎょっと剥いて叫ぶ森山先輩に私も感極まって思わず叫んでしまった。
ああ神様、今日はとてもいい1日です。

 




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