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  瞳に毒された


「なあ、ほんとにダメ?」
『…しつこいです森山先輩。本を借りないなら帰ってください』

ピシャリと宣告された言葉。
彼女は俺の方なんか見向きもせずに眼鏡の奥から手元の本を見ている。

「ちょっと!ちょっとだけで良いから!」

カウンターに頭をつけて土下座もどきをする俺に夢ちゃんがこっちを向いた気配がした。
おおっ!?と期待してちらっと目線をあげると、

『取りません、鬱陶しいです』

ものすごく冷たい目を向けられて俺は閉口した。


「あああああめっちゃ見たいなああああ!!」
「うるせええ!」

俺は叫びながらもシュート練習を行う。
パシュッとネットの中に入ったボールはそのまま真下の床に落ちた。

「どうだ笠松!」
「ドヤ顔すんなうぜぇ!!静かにやれ!」

飛び蹴りをくらったが俺の心はそんな程度では折れない。俺の体は物理的に腰から折れたが。

千歳夢ちゃん。海常高校一年生で黄瀬と同じクラスの子で図書委員。
俺は少し前に彼女と廊下でぶつかってしまったのだ。女の子には紳士たる俺としてあるまじき行動。
(ちょっとした不注意だったが彼女と出会えたことだし前向きに考えるとする。)

『ひゃ…っ』
「う、わ!?ごめん、!」

重い本を持っていた夢ちゃんの手からそれは床に落ちて。
かつんと掛けていたメガネと床が音を立てた。
割れた音はしなかったけど、やべと思ってすぐさまそのメガネを拾った。座り込んでいた彼女にそれを渡す。

「メガネ、割れてない…?」
『あ…、大丈夫、みたいです』

そうして彼女が顔をあげた瞬間、髪が揺れて隠されていた瞳が俺とぶつかった。

「っ…超、かわいい…!!」
『は…?』

俺は思わず口元をおさえて呟いた。

「君メガネとった方が可愛いよ…!ていうかむしろメガネとってください俺のために!」
『あ、あの…頭ぶつけたりとか、』
「してないからそんな真面目に心配しないで」

はあ…、と彼女は若干混乱している風だった。押しきれ俺!目の保養を!
ていうか混乱してる顔も可愛いなご馳走様です!

「あれー?森山先輩また女の子ナンパしてるんッスかー?」

すると後ろから黄瀬の声がかかる。ちっ邪魔が入った。
『き、黄瀬くん…』正面の彼女が呟く。あれ、まさかのお知り合いパターンですか。
ていうかいつの間にメガネをかけていたんだ、ねえちょっと。

「あれ、千歳さんじゃないッスか」
『黄瀬くん。…この人頭ちょっとおかしいよ。それにまたナンパって…とんでもない女好きですね』
「ちょ、森山先輩何やらかしたんッスか!?千歳さんがこんなに言ってるの初めて見たッスよ!?」

彼女は周りに散らばった本を拾い上げて立ち上がった。
そして眼鏡の奥からスッと俺を睨んで一言。

「最低です。女の子の敵です」

以上が彼女とのファーストコンタクトで俺が一目惚れした所以である。

「何度聞いても森山がドMにしか聞こえないよな」

俺が何度も話したそれを小堀が苦笑で一蹴した。

「俺がドMだと…!?聞き捨てならないな…」
「さっさと練習しろよ、お前…!!」

笠松が今度は鳩尾に蹴りを決めそうな雰囲気だったので俺は口を噤んだ。おお、怖い。


めげずにアタックを継続していたある日、図書室のドアを開けようとした手がぴたりととまる。

「あれ?フレーム変えたんッスか?」

…黄瀬、なんてこった。黄瀬まで夢ちゃんの可愛さに気づいてしまったというのか、ジーザス!

『…変えた、というか、コンタクトにしてみたの。これ、伊達メガネで』

詰まりながらも答えた夢ちゃんの声に俺は目を見開いた。え、マジで。嘘だろめちゃくちゃみたい。

「ははっ、見事に絆されちゃったみたいッスねー」

『…黄瀬くんうるさい』不貞腐れたようなその声。やばいほんと可愛いぞあの子。

「ていうかメガネとってあげればいいのに。意地張ってるとか?」
『…だって、森山先輩が好きなのはメガネ掛けてない私だもん。私のことを好きなわけじゃないよ』
「…そんなこと、」
「そんなことないから」

気づいたら躊躇していた扉を開けていて、気づいたら思ったありのままを叫んでいて。

「俺が好きなのは夢ちゃんだから。だから、えーっと…メガネしてくれてても、好きだ、よ?」
『………っ!!か、かかか帰るっ!!』

ぼんっと音が鳴るぐらい顔を真っ赤に染め上げた夢ちゃんは俺が居たところとは別の入口から図書室を飛び出る。

「あっ!ちょ!?」
『先輩なんか嫌いですからあああ!』

そう叫びながら逃げていく夢ちゃんにカウンターで呆然と立ち尽くしていた黄瀬が吹き出した。

「ちょ…っ!ほんと二人共噛み合わせ悪すぎ…っ!!」
「うるっせ!ほんと黄瀬邪魔だ!ていうか結局顔あんまり見れなかったんだぞ!」
「森山先輩が勝手に入ってきたのが悪いんじゃないッスかー!」

もうちょっと顔しっかり見ときたかった。

メガネかけてない姿だけじゃないんだって。
メガネかけてるときだって、黙々と仕事してるときだって、たまに見かける笑顔だって。

夢ちゃんの全部全部好きなんだって今から言っても大丈夫?

 




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