10000 | ナノ



  シンデレラな気分


ああ、くそイライラする。

力を指先に集約して机をトントントンと叩く。木村がそれを見て「気持ちは分かるけど抑えろよ」と苦笑いした。
だから抑えてんじゃねーかよ、机を犠牲にして。

「お前が千歳に頼んだんだろ」
「…分かってるよ」

だけどそれでも面白くない。口をへの字に曲げ原因の方へ顔を向けた。

「で、ここはどうすれば良いんだ?」
『この前言ったじゃない…。いい加減覚えようよ…』
「いやー千歳はほんと頼りになる!」

何なんだ、いやマジで。
そんなこと言いながらも千歳は机の上に広がっているノートを指差しながら丁寧に教えていく。
顔近ぇよ。ふざけんな。残念だったな、そいつは俺のだよ。潰すぞ吉田ァ…!
木村には俺のオーラらしきものが見えたのか、「おい…、殺すなよ…?」と忠告された。


確かに俺は付き合い始めるとき千歳に言った。「クラスメイトには黙っててくれ」と。
当時、「好きな奴が居るから」と言って断った女子がうちのクラスに居た。(その好きな奴とは勿論千歳なのだが)
しかしその後、そいつは諦めることなく俺を好きらしい。
まさか自分を振った男の彼女が自分と同じクラスメートだと知ったら、もしかしたら何かしでかすかもしれない。
自分の顔がそれなりにいい事は自覚してはいる。
悪いけど言わないでくれ、と俺が言うと千歳は「全然大丈夫だよ」と笑った。

だから、お前もうちょっと気をつけやがれよ…!!
ここで「俺のだから触んな」とか漫画なら颯爽とヒーローが駆けつけることだろうに。

『…で、ここにx=2を代入して、』
「えー?わかんねえ…。つか、千歳頭、ホコリついてんぞ」
『え、ウソ』

吉田が千歳の頭に手を伸ばしたところで、頭の中でぶちんと何かが切れた。
勢いよく立ったせいで椅子がガタンと鳴ったが知ったことではない。
千歳のところへ歩き、ぐいっと腕を掴んで立たせる。

「え…、おい宮地…?」

吉田が困惑した顔で俺を見る。背後でクラスメイトの視線も突き刺さるがもう取り消しは利かない。

「夢、行くぞ」
『え、あ…うん!』

教室を出てからキャーだのなんだの騒ぐ声が聞こえた。
あーバレたかも。かもっていうかバレたな。でも気持ちはスッキリしていた。


「近ぇよ」

しばらく歩いて俺がそう呟くと千歳は文字通り頭にはてなを浮かべていた。

『なにが…?』
「…吉田と、顔近い」

くっそ分かれよ、この鈍感が…!何なんだこの馬鹿。
俺がそう言ってやっと分かったようで、そして呟いた言葉は『…ヤキモチ?』だった。
もうこうなりゃヤケである。

「…悪ぃかよ」
『ううん嬉しい』

へにゃりと笑った姿は、…くそ、可愛い。
抱きしめたい衝動に駆られたがここは廊下だ。ぐっと堪えた。

『教室戻りづらくなっちゃったねえ』
「誰のせいだと思ってんだよ…」
『それはヤキモチやいちゃった宮地くんのせいかな』

ごもっともな意見に俺は閉口した。

 




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -