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  僕の心臓を返してくれ!


「…うげ」

バイトをあがって、携帯を確認するとメールが入っていた。
23時にメールしてくるということは正直嫌な予感しかしない。
開けると予想通りで夢さんの友人から「お迎えよろしく!」となんとも腹の立つ顔文字つきのメールだった。
しょうがないので俺は了解です、とメールを返して更衣室から出ると扉の横に同じシフトの最近入ったばかりの女子バイトが。

「宮地くーん、よかったらご飯いかない?」

なんというか、あこいつ絶対俺狙ってるわ、って確信した。
なんか目がそんな感じ。獲物狩る肉食獣みたいな目?

「ムリ。彼女の迎え今から行くから」
「え…、宮地くん彼女居たんだ…?」
「おー、じゃそういうことでお疲れー」

しくじったみたいな顔をするそいつにちょっと気分は晴れやかになった。


店に入るとメールをくれた夢さんの友人がすぐそばのベンチで待っていた。

「ごめんねー宮地くん、毎度毎度。飲むなとは言ってるんだけどいっつも気づいたらもうべろんべろんでさあ…」
「いや別に…。あ、支払いとかしてますか」
「最初にしたから大丈夫よー」

それよりこっちこっち、と案内されたのは奥の座敷だ。

「千歳ー迎え来たわよー!」
『んー…?』

隅っこで丸まっていた夢さんの頬を友人さんがぺちぺちと叩く。
俺の顔を見た瞬間『あーみやじくん』とへにゃりと笑った。…あー。

いつもしっかりしてるくせにこういう時だけ…!

「ほら…夢さん」
『あーい』

バカみたいな返事をした夢さんはしゃがんだ俺に掴まる。
腰に手を回してから足に力を入れて立ち上がる。
「そんじゃすみません」迷惑をかけてしまった友人さんとそのあたりに居た人に頭を軽く下げとく。

「えー誰ー?千歳さんの彼氏ー?」

この状況みて彼氏じゃねえとかあんのかよ!思わず叫びそうになったが相手は知らない人とは言え年上だ。
なんて返そうかと迷っていると抱き上げていた夢さんが一言。

『んふふーかっこいいでしょお?』
「………おじゃましました」

不意打ちとか勘弁してくれ。


夢さんとは高校から合わせてかれこれ四年ぐらいになるけどここまで酒癖が悪かったものだろうか。
前は酒は呑むもののここまで馬鹿じゃなかった気がする。

「夢さん風呂はいんの」
『んんーやだー』

…これは風呂は明日に回すべきだ。
とにかく水を飲ませて寝かせとこう、それが一番安全だ。

「…っとに、彼女じゃなかったらマジ轢くわ…」

高尾とか緑間だったらマジでそのへんの公園に放るわ。(木村と大坪は長年のよしみで家までは送り届けてやるがそもそもアイツ等はそんなことしない)

『みやじくんー』
「はいはい、何っすか。ほら水」
『あのね、家にみやじくんが居るから安心するの』

………それは、酔っぱらいの言い訳なのか。

「…後処理はどうせ俺だよ」
『ごめんねえ』
「…別に」

ほら水飲めよ、と俺が差し出したコップを夢さんは受け取らない。
…おい。しかもあろうことか夢さんはへにゃりと笑った。

『すきだよ、きよしくん』
「っば…!!」

ふざけんないきなり名前で呼ぶとか!!
持っていたコップを焦って放してしまい床にそのまま落下してばしゃりと水が床に広がる。(フローリングで良かった…)

「っ…くっそもう寝ろ!バカ!」

叫んで気づく。…もう寝ていた。
あー!くっそ!頭をがしがしと掻いてベッドを背にして座った。


次の日、水を飲まずに二日酔いになって頭を押さえる夢さんを見て少しだけざまあみろと思ったのは仕方ないことだろ。

 




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