柳蓮二
『うわ!…また今年もすごいねえテニス部』
朝教室に行くと蔓延していたチョコレートの匂い。
それの中心はにこにことした笑顔で既にチョコレートの包みを解くブンちゃん(既に隣に空の山が出来上がっていた)と、机の上に突っ伏す仁王だ。
「おっす!長山」
『上機嫌だねーブンちゃん』
私は荷物を下ろして隣の仁王に目を向ける。
「当然だろぃ!バレンタインデー万歳!」
『反対にこっちはグロッキー状態だなあ…、おはよう仁王』
「…ブンちゃんどっかやってくれ」
首だけこちらに向けた仁王の顔は真っ青だった。
『はい仁王、水』
「…ん」
私が渡した水を仁王はゆるっとした動きで受け取る。
それバレンタインだからと私が言うと仁王は優しくないのう、と呟いた。
『…ね、他のみんなは?』
「あー…一番もらってたのは幸村くんだろぃ」
「違うじゃろブンちゃん、長山が気になるのは」
参謀のことじゃ、とくそこのペテン師チョコレートに溺れて死ねば良いよ。
ブンちゃんも分かってしまったようでああ、ね。と意味ありげに呟いてにやにやと私を見る。
なんだいなんだい!!二人して私をいじめちゃってさ!
二方向からささる視線に耐えれず私が思わず後ずさると後ろに居た人にぶつかってしまった。
『わ、っごめ…』
「あまり俺の彼女をいじめないで貰おうか」
へっ、と頓狂な声をあげてしまった。
それは後ろから腕が回ってきたからか、聞こえた声が柳のものだったからか。多分どちらもだ。
『なんでっ』
「ここに、とお前は言うがちょっと用事があってな。まあ面白そうな話が聞けて良かったが」
そう言われて頬がかっと赤くなるのが分かった。
聞かれてた、そう思ったら恥ずかしくて恥ずかしくて柳の顔が見れなくなる。
「おお、真っ赤じゃ」
「長山照れてるー」
からかい口調の二人にうるさいっと返そうとした、ら。
「可愛いだろう。あんまり見るなよ」
そして私の顔を隠すように腕が頭に巻かれる。
おい、おい参謀。お前のキャラはどこに行ったんだ。もうちょっと恥ずかしがるとか、ないのねえ。
『っ〜…ばか』
「何とでも言えばいいさ」
そう言って柳は私のおでこにキスを落とす。
「チョコは今年は一つしか要らないな。それをまだ貰ってないが」
『や、柳にしかあげないもん』
私がそう言うと柳はふっと笑みをこぼして「当然だ」とこたえた。
くそう、もうちょっと恥ずかしがれ、ばか!
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