バレンタインデー | ナノ



  森山由孝


バレンタイン。それは女の子の戦争でもあり、男の戦争でもあるのだ。


「黄瀬死ねばいいのに」

俺は入り口を見ながらそれはもう恨めしそうに呟いた。
入り口ではきゃいきゃい騒ぐ女の子とそれに対応している黄瀬。その隣には貰ったチョコレートの山がダンボールに箱積みされている。
もう一度言おう。黄瀬死ねばいいのに。そうしたらあのチョコを俺にあげるとかいう女の子が現れるかもしれないのに。
あ、今あげてたの二組の可愛いと評判のあの子だ。くそ、もう一度言わせて貰う。

「黄瀬死ねばい」
「うるせええええ!!!」

笠松の怒声が響き俺の背中に蹴りが一発。
なんだかんだで俺も笠松も小堀も体育館に集まっている不思議。

「うっせえ!てめえは黙ってシュート打ってろ!」
「はっ…!俺のシュート練習に見惚れた女の子が俺にチョコレートをくれる可能性が…!」

笠松グッショブすぎる。
俺は早速スリーポイントより外から打つ。するとガコン、とボールは綺麗に弾かれた。

「あ」

うーん、ブランクってやつなのだろう。


「森山ー、呼び出し」

結局誰もくれなかったけどな!
俺が部室で嘆いていると小堀が俺を呼んだ。

「キタコレ…!?」
「ああうん、まあそんなとこだろ」

頑張れよ、と俺の背中を押す。小堀よ、お前は俺が今まで会ってきたなかで一番男前だ。


「…って、長山かよ!」
『来ちゃ悪いの、ばかやま 』

思わずがっくりしてしまったのはクラスメイトの長山だった。
いわゆる、女友達の部類に入るのだろう。

「つかお前何してんの。もう七時だろ」
『………待ってた』
「…何を?主語使えよ、受験生」

そう言うと真っ赤なチェックのマフラーに顔を埋めて小さな声で森山、と呟いた。

「へ」
『…これ、あげる』

後ろに回していた手を俺の前に出す。
そこにはピンクの包装紙にチョコレート色のリボンを巻かれた四角い箱。
時期からするに、ようするに。

『…え、っとあの、そういうことなので、っばいばい!』

逃げ出した寸前にちらりと見えたその顔はマフラーに負けない程度に染まった赤で。
ただのクラスメイトと思っていたのに、それなのに。可愛い、と思ってしまった。

引退したとは言っても一ヶ月前までバスケ部だった。

今から追いかけてもすぐに掴める。
捕まえたら「そういうこと」が「どういうこと」なのか教えてもらおう。


 

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