バレンタインデー | ナノ



  宮地清志


「おいコラ」
『…』

むっすーと頬をこれでもかという風に膨らませてそっぽを向く夢。
俺の呼びかけに応えるつもりは一切ないらしい。
それでも逃げない。いや逃げられないの方が正しいのだろう。俺が両脇を塞いでいるのだから。

もう一度「夢、」『…』返事はない。

「夢、返事しろって」
『…』
「………仏の顔も三度までって知ってるよな?」

こうなりゃ強硬手段だ。
横を向いていた夢の顎を掴んで強引にこちらを向かせる。男は最終手段は力技使えるの覚えてねえの?

『っ…』
「チョコ」

よこせ、俺が低く呟くと夢はひぅ、と小さい悲鳴をあげた。

『だ、って、見ちゃったんですもん…』
「…は?」
『っ宮地先輩、いっぱいもらってたじゃないですか…』

言われた言葉を頭で反芻して、ぶはっと思わず吹き出してしまった。

『な、っなんで笑うんですか…っ!ひどい!』

つまりあげるのが嫌なわけではなく、拗ねていたのだ。
ああほんと、可愛いな、と思った。言わねえけど。

「いやなんでもねえよ。悪かったな、脅して」
『絶対思ってないくせに…!』
「ああ、ばれた?で、チョコ。おらさっさと寄越せ」
『…甘いものいっぱい貰ったって嬉しくないでしょ、先輩』

まだ拗ねていたいようだ。むしろ笑ったのに余計気を悪くしたのかもしれない。

「言っとくけど、お前以外の食う気ねーよ?貰ったのは全部本人に突っ返した」

分かったらとっとと寄越せよ。
俺がそう言うと夢の顔は林檎みたいに一気に赤くなっていた。

『先輩のばか…。女の敵…』
「なんとでも言えよ。嬉しいくせに」

そう言うと夢は閉口した。ほら図星。

 

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