バレンタインデー | ナノ



  高尾和成


近付くバレンタインデーに周囲は沸きたって。
誰がくっついた、だの誰ちゃんが誰くんに渡すのなど噂レベルだったり本人が言っていたりそんな会話が聞こえる。

「おーおー、皆テンションたっけえな」
「あんな甘い菓子を貰うだけの行事、なにが楽しいのだよ」
「そんなこと言って好きな子から貰ったら嬉しいくせにー」

そういうと真ちゃんは顔を逸らせて「あいつには甘くないやつが良いと言ってある」と照れ隠しか眼鏡のブリッジを指先で押した。

「まーでも悲しいことに練習なんだよなあ。強豪はこういうトコ大変だわ。真ちゃん彼女ちゃんといつ会うの?」
「終わってからに決まっているのだよ」
「だよねえ。彼女ちゃん私を優先してよ!っていうタイプじゃなさそーだし」

そんなタイプなら真ちゃんが好きになるわけないし?俺がからかうと当然なのだよ、と開き直って惚気やがった。

くそリア充爆発しろ、なんて思っていたら耳が気になる話題を拾った。

「夢ちゃんはどーするの?」
『え?うーん、作らないかなあ…。手間だし、バイトもあるし渡す相手も居ないしね』

悲しいことに、と笑う長山さんの声を聞いて俺は喜び半分残念半分だった。
彼氏とかいねーんだ、と義理も作んねーのかなと思った。
ま、俺の絶賛片思い中だからあげるとかそんなの長山さんは微塵も思っちゃいないんだろーけどね!


ダンダンッとボールが床をつく音が響く。
今日の緑間は自主練習を早めに切り上げて帰っていった。
俺がからかい半分で「変なことすんなよー」と言うと「あいつが何かしたくなるようなことしなかったらな」と盛大に惚気られた。もう甘すぎて仕方ねえわ。

「俺もそろそろ切り上げますかねー…」
「高尾先輩帰るんですか?」

呟いた一言は一緒に練習していた後輩たちに拾われた。

「おー、戸締りよろしくな。朝先輩に鍵返しに行きゃあいいから」
「はーい、お疲れっしたー!」

中々素直な後輩たちだ。こいつらを見ていると初期の緑間がどれだけ我侭だったかを考えると涙が出そうだぜ。


「さみい…」

なんかもう体も寒いし心も寒いわ。
帰り道、すれ違うのはカップルばかり。
早く帰ろうマジで。なんかもう色々切ないわ。

『あれ、高尾くん?』

後ろから呼ばれたその声に勢いよく振り返るとコートを着た長山さんだった。前言撤回する、居残り練習万歳!

『自主練?』
「ん、長山さんはバイト?」
『うん、悲しいことに独り身だからね』

あははと笑う長山さんはなにかを思い出したのか『あ、そうだ』と呟いてなにか箱を取り出した。

『これ、良かったら高尾くんどうぞ』
「…なにこれ?」
『チョコ。バイト先からの貰い物で悪いんだけど私あんまり甘いもの得意じゃないから良かったら』

どうやらしばらく呆けていたらしい。
要らないならいいけど、とひっ込まれそうになったチョコを「いる!いるから!」と慌てて掴んだ。

「ありがとう、嬉しい」
『ううん、私も。高尾くんに渡せて良かった』

その発言に思わずえ?と聞き返してしまった。

『私ワガママだからバレンタインに渡して他の子に埋もれたくないんだ。
だから別の日に渡そうと思ってたんだけど、やっぱり特別な日だから渡せて嬉しいな』

これは、中々特別な意味を持ってないか?
悪戯が成功した子どものようににこりと笑って『じゃあね』と笑って俺の前を去って行った。

これは完全に彼女の術中にはまってしまったようだ。
だって、すごく追いかけて行きたくなっちゃったじゃん。

 

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