準備中 | ナノ

01
綺麗な子だ、最初の印象はその一言に尽きた。
だけれど綺麗なバラには棘があるという言葉があるように彼女にも棘があるようで。
秀徳高校に入学してもう半年経つが彼女、更科和に友達らしき人は見当たらなかった。



俺は彼女の顔を不躾にならない程度にじいっと見つめた。
黒板からノートへと顔を俯かせるたびに長い睫が揺れる。
おお、すげえ長い。自分の相棒の(下)睫毛も大概長いがやっぱ男子と女子って結構違うモンだなー、なんて変なところで感心していた。
つか相変わらずおキレーな顔をしていらっしゃることで、と思っていたら背後に立つ影にまったく気づかなかった。

「…高尾、授業に関心がないのはまあしょうがないとして黒板にまで向かないのはどういうことかね」
「あいてっ」

いつの間にか背後に立っていた中谷監督(この時間は中谷先生だが)に容赦なく教科書ではたかれる。
瞬間教室は笑いが弾ける。人の不幸を笑うとはこのクラスも馴染んできたことに喜べばいいのかそれとも自分が笑われていることに怒るべきなのか。多分どちらもであろう。
叩かれた箇所を擦りながら視線を彷徨わせると彼女がこちらをじっと見ていた。
おおう、ぴくりとも笑ってねえ。それどころか口を引き結んでるってどういうことだ。更に言えば自分と目があったことにひどく驚いたようでびくりとい体を揺らして顔を黒板のほうへ向けた。それはもう不自然と思える勢いで。

「んー…高尾、お前この後英語のノートと問題集纏めて私のとこにきなさいね」
「げぇっ?!マジっすか!」
「一人で行くのは難だからねえ…。このクラスの英語担当はっと…高波か、悪いが手伝ってやってくれ」
『…はい』

高尾ドンマーイ!と明らかにからかい九割の声に掻き消されそうな肯定の返事が聞こえた。


「…」
『…』

無言のまま俺は問題集を、高波さんはノートを持って英語科教室までの廊下を歩いていた。
ちなみに問題集のほうが重いので俺が問題集を持っているわけだが。俺ってば紳士。

「あー…っと、ノート大丈夫?重くない?」

沈黙に耐え切れなくなった俺がそう言うと高波さんは顔を気づかれない程度に逸らして『大丈夫、です』と答えた。ああ、この子もしかして人見知りかな。

「ごめんな、俺のせいで重いもん持たせちゃって」
『いえ…どうせ高尾くんが持たなくても自分一人で持って行ったので』
「はあ!?いやいやそれはダメっしょ、しかもそれだと二往復じゃん。ほかの英語担当は?」

確か教科担当は一教科につき二人のはずだ。
彼女は口をそろりと開いて『緒方くんです』とクラスの男子の一人をあげた。

「ああ…緒方か…」

緒方といえばよく言えばムードメーカー、悪く言えば適当なのだ。
あいつじゃあ教科担当になったのも覚えてねえだろうなあというのが容易く想像できた。
「えっ俺そんなんなってたっけ?でもまあ今まで何も言われんかったし言いんじゃねえ?」と素で言いそうな男である。

『言い出しづらくって』
「でも言った方がいいぜ?こんなん一人で持つことねえって。友達とかに頼めばいいじゃん」
『………わたし、友達できないから』

彼女はぽつりと零した。
やべえ言葉が滑った、と焦ってフォローの言葉を口にする。

「俺を友達にすりゃいいじゃん!!」
『…えっ』
「あっ…いや、ほら俺友達多いしさ、自分で言うのもあれかもしんないけど!だから別に更科さんが嫌じゃなければね!」

滑らせてしまったものは仕方がないがそれでも理屈がどう考えてもおかしい。だからの後がとくにひどいというか自分で頭を抱えたくなるレベルだ。
どうしようかコレ…なんて思っていたのだが更科さんはなぜか泣きそうな顔をした。え、泣かせるようなこと言った俺?

『う、うれしいけどごめんなさい!!!』

…待って、待ってそれは完全に周囲にいる人に誤解を与えているよ更科さん。
「わーあの男子フラれてるカワイソー」とか見も知らん女の先輩にこそこそ言われる俺の身にもなって更科さん。


prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -