『あ、あのぅ…!』
壁に寄りかかって休憩していたら背後からか細い声が聞こえた。
背後といっても真横にある体育館の入り口からだったが。
「あ?」
『ひ…っ!!』
え、ちょっと待て。いま悲鳴あがったよな。
俺一応振り返っただけなんだけど。(いや確かに怖い外見だとは自覚しているけども)
悲鳴をあげたらしい人物は俺を見上げて涙目になっていた。いやびびりすぎじゃねえか。
『あ、あの…っ、あの…っ!!』
「………なに」
どもっていて話にならない。
俺は気づかれない程度に小さなため息をはき腰を屈めてそう切り出した。
『あ、の…笑、ちゃん』
「笑?ああ、羽川」
『そ、です…。居ますか…?』
ぎゅっと腕の中にあるノートを抱きしめる彼女のお目当ては、バスケ部マネージャーの羽川笑らしい。
体育館を見渡せば大坪と話している羽川を見つけたので「羽川ァ!客!」と叫んだ。
『ひ、っ』
「…」
びびりすぎだろう。別に怒ったわけでもましてやお前に言ったわけでもない。
どんだけ臆病だ、と呆れながら羽川が来るのを待つ。
羽川は大坪との話を切り上げてこっちに走ってきた。肩口で揃えられたボブの髪が揺れる。
「優!なにやってんのアンタ!」
『笑ちゃんのノート…私のカバンの中に入ってて。部活で使うみたいだったから無いと困ると思って』
「あ…ほんとだ、忘れてた…。ありがと、優!帰りに優の好きなモン何か買って帰るね!」
『うん、待ってる。じゃあ先に帰ってるね。………あの、ありがとうございました』
最後の言葉はどうやら俺にらしい。