『にゃーん、にゃー…怖くないよー?にゃーん』
何を、やっているのだろうか。
俺の眉間にはきっと深くシワが刻まれていることだろう。
だってしょうがないと思うのだ。
なにせ部活終わり、遅い時間帯に自分の家の前で同級生がにゃんにゃん鳴きながら猫に手を伸ばしていたのだから。
「………みょうじ」
『ほあ?!あっ逃げちゃった…あ、宮地く、』
俺より優先事項は猫らしい。
みょうじの声に驚いて逃げてしまった猫を名残惜しそうな瞳で追いかけてから俺に目を向け、
『………みてた?』
「おう」
そして自分の行動を頭に思い出していたのか一拍置いてからこれでもかという程に顔を赤くした。
『う、うわあああ…!ごめん、なんか変なところをお見せしてしまい…!ああもう忘れてください!』
「…猫、好きなのか?」
『大好き!もうねー日本猫とかいいよね!ミケちゃんもブチちゃんもシマちゃんも黒猫ちゃんも白猫ちゃんもなんでも大好きだよ!あっでもマンチカンとか可愛いよね!あの短い手足とかたまらない…っ!!アメショーとかロシアンブルーとかラグドールとかシャムとか気品溢れてていいよね!あっもちろんミックスとか雑種も好きだよ!とにかく全部好きなのにゃんにゃんしたいの!ああ愛くるしい愛でたい可愛いー!!』
「分かった!お前が大層猫が好きなのはわかった!」
マシンガンのように連射されるみょうじの言葉を部活で鍛えあげられた声量で制する。
口の前に手を出せばみょうじははたと目を見開いて口を止めた。
『ええと…ごめん、猫のことになるとちょっと熱くなってしまいがちでですね…』
「…」
しどろもどろに謝罪と言い訳の言葉を紡ぐみょうじを無視して俺はスマホを取り出して操作する。
目当ての画像を見つけて、みょうじの方へ画面を向けて反応を待った。
『かわいい…っ!!』
みょうじに見せたのは、三毛とブチの二匹が写った写真。
耐えるようにみょうじは口元を覆っている。
「…実物見てえ?」
『いいの?!というか宮地くん家の子!?』
「あー…まあ、うん。ていうか俺ん家ここなんだけど」
前の家を指すとみょうじは家に目を向け数度ゆっくりとした瞬き。
そして視線を俺に戻して、『…お家のまえで大変アホみたいなことをしてしまいすみません…』また顔を赤く染めだ。