短編 | ナノ

はめたもん勝ち



えぇとこれは一体全体どういう状態なのでしょうか。
私の1000gという小さな脳ではまったく理解できません。


「星野さん」
『は、はいあの…』

なぜただのクラスメートの伊月くんに壁ドンされて迫られているのかなんてまったく私には理解できない状況だ。
切れ長の瞳が私をなぞるように上から下まで見つめる。
確か彼は鷲の眼とかいう能力を持っていて、ああじゃあいま私が何を思ってるかなんて丸わかりなわけですね。なにそれチート。

「生憎俺は人の心まで読めないんだ、期待にそえなくてごめんね?」
『ひいいい!ばれてるううう!』
「星野さんが自分で言ってたんだよ」

くすくすと笑う伊月くんは確かに授業中や休み時間に見せる普通の伊月くんだ。だけれど私の脚の間にある伊月くんの左足が普通じゃないと叫んでいる。

『あ、ああの伊月くん…。部活は…?』
「さぼっちゃった」
『ええええ、行ってよ…!なに堂々とさぼってるの…!』

てへ、なんて笑う伊月くん。え、なんで女の子より可愛いのそれ。
そんなこと考えてるとひたりと頬に伊月くんの右手が触れる。
思わず目を瞑ってびくりと反応してしまった。ああもうこんなんじゃ色々と伊月くんの思うツボだ。現に伊月くんはくすりと小さく笑った。

「俺さ、人よりよく見えてるからさ夢ちゃんのこともよく見てるんだ。授業中に欠伸したりする夢ちゃんとかさ」

あ、あれ。なんだか名前呼びにグレードアップしてる…!?

「昨日とか廊下でこけかけてただろ?可愛いなあと思ってさ」
『あ、あの…』
「なんていうか目が離せないっていうかさ、まあ多分夢ちゃんのこと好きなんだけどね」

あれ、いま告白紛いのことを云われた気がする、よ?

「どう?俺と付き合ってくれる?」
『あ、え…!』

にっこり、そんな顔で私に迫ってくる伊月くん。あの、近い、です。申告しようとした私の声に被さって教室の扉が激しく開いた。

「伊月いいいい!!!」
「伊月くんんん!!!」

開いた人はもちろん絶叫した二人のどちらかで、二人は私と伊月くんの姿を見て更に悲鳴をあげた。

「ちょ、バッカ!お前何してんだよ!?」
「きゃあああ!夢の純潔があああ!」
『り、リコちゃん…!?日向くん…!?』

日向くんが伊月くんをひっぺがしてリコちゃんが私をがくがくと揺らす。み、見事なコンビネーションだ…。

「部活来てねーってコガ達が言うからまさかと思って来てみりゃお前なー…」
「だって仕方ないだろ。いつも日向や監督が居るんだからこうでもしないと」
「練習さぼってまでやんな!つーか壁に追い込んで迫んなダァホ!」

日向くんが伊月くんの頭を結構激しく叩いた。わー痛そう。
そんな私は私でリコちゃんに尋問されている。

「大丈夫!?なにもされなかった!?」
『え…あ、』

具体的に言うなら壁ドンされて頬とか触られて迫られて告白されました。
思わず思い出してしまって顔に熱が集中する。

「伊月くんん!?夢が赤くなるような何したの!」
「何って…ナニ?」

ちゃんと言って!その言い方は余計妖しいよ伊月くん!
伊月くんの一挙一動に私は結構動揺しているらしいのでとりあえず伊月くんの策略にまんまとかかってしまったようだ。


◎伊月俊/krk






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