短編 | ナノ

積もっていくのは俺だけだよ



『………っぐ、』

部室でデータのファイル整理をしていた。
そこまでは良かったのだが、一番高い棚にあるファイルに「まあ届くでしょ!」なんて150cmが高を括ってすみませんでした。
これを落としたら絶対やばい!!もうなんか隣のファイルとかも出始めてるんだけど!
棚に寄りかかり精一杯足先と手先を伸ばしてファイルを支える。

外では「さーこーい!!!」「来いやオラァァ!!」カキーン!と部員の声とボールが当たった音が響いている。
ああ、皆今日も部活頑張ってらっしゃいますね…!あと伊佐敷先輩目立ちすぎです。
そろそろ私は手足が限界…っ、です…!
そう考えてしまった時点でもう駄目だったのだろう。ふっと力が抜けた。

ああ…これ以上頭がバカになりませんように…!
そう強く強く願って目を瞑った。
そうして訪れるはずだったものはなぜだか音しか聞こえなかった。
代わりに「…いってぇ…!」と呻く声。
目を開ければ、私の顔に影がかかっていた。

「…なーにやってんだ」
『み、ゆき先輩…?』

にぃ、とサングラス越しに目を細めた御幸先輩が私に覆いかぶさるように手を棚についていた。

「ったく…、部室入ったらお前変なポーズで固まってるから笑い堪えるの大変だったんだぞ」
『いつから見てたんですか!?』
「はっはっは!三分前だ!!」
『助けてくださいよ!!』

だから助けてやったろーが、とデコピンをおでこに食らわせられた。
そうだ、お陰で痛みがくることはなかった。御幸先輩の足元にはファイルや飛び出したプリントが散らばっている。

『ありがと、ございます…。はっ御幸先輩頭バカになってないですか?!』
「いつもテスト見てやってんのは誰だと思ってんだ?」
『いつも通りの御幸先輩でした!すいません!…ていうか先輩練習は!』
「あ?あー…まあ、あれだ。お前が中々戻ってこねーから」

なんだか質問と答えのキャッチボールが出来ていない気がする。

『えっと、はい、あの…』
「あーはいはい分かってねーな」
『………はい』

知ってる、と御幸先輩は何が面白いのかはっは!と笑いながら頭を撫でる。
どうして撫でられているのかはよく分からないが、御幸先輩の大きな手に撫でるられるのは心地が良い。
目を細めてそのまま撫でられていると、不意にその手の動きが止まった。
どうしたのだろう?と目を開けたのに視界が暗いままだ。

『御幸先輩?え、なにこれ?』

目の周りの感触から察するにどうやら手で目を覆われているらしい。

「…っとに、勘弁してくれよ」
『…いや、先輩キャッチャーなんだから言葉のキャッチボールしません?ほんと』
「…」
『あいたっ!えっなに?!見えないからって何でもしていいと思ってません?!』
「…何でもしていいならするけどな」

何を?!と慌てた私の問には御幸先輩は答えてはくれなかった。



◎御幸一也/dia






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