閉じられた鳥籠 私には彼氏が居る。 バスケ部の二年生で帰国子女の氷室辰也くん、なんだけど。 『…ひ、ひむろくん?』 「なに?」 にっこりと笑って私の手首をぎりっと掴んでるこの人はだれ? 『あの、えっと…痛いよ』 「痛くしてるからね」 『な、んで?』 そんな至極当たり前のように言われたって困る。 だってほんとに痛い。きっと赤くなってるに決まってる。 『なんで、私…悪いことした?』 「したからこうしてお仕置きしてるんだよ、馬鹿だなあ」 そう言いながらこめかみ辺りにちゅうっとキスを落とされて、そうして歯をたてられる。 『いっ、たい…!』 「はは、俺そーいう顔が一番好きかもしれない」 『氷室くん、怖い…!』 私は真面目に、本気に怖くて逃げたくてそう言ったのに氷室くんは口に弧を描いて薄く笑う。 「怖い?そうかな、俺は夢のが怖いよ」 『っ…』 「誰彼構わず愛想振り向いちゃってさ、俺だけじゃ満足できない?それにアツシのことは名前で呼ぶのにどうして俺は名字なんだ?俺が彼氏だろ?知ってるだろ?自分の彼氏の名前くらいさ。言えるだろ?その口でさ」 つぅ、っと彼の長い人差し指の腹が私の唇をなぞる。ぞわりと肌が粟立った。 「言えないならこんな口、要らないんじゃない?」 そう言って氷室くんは私の口に顔を寄せて口端にがりっと歯をたてた。『いっ』自分の口から小さな悲鳴が出て口のなかに鉄の味が広がる。 「…血ってあんまり美味しくないね」 赤が滲んでいる舌を出してそう呟く氷室くん。じゃあそんなことしないでよ、なんて私が言えるわけない。 「ほら、言ってよ。俺の名前。夢は賢いから言えるだろう?」 『っ…た、つや、くん…!』 「うん、…良い子だね」 そう言って彼は掴んでいた手首を離して私を抱き寄せた。 私も赤くなった手首を彼の背中に回した。 私はきっと、にげられない。 氷室辰也/krk |