短編 | ナノ

きみとくだらないささめきごと




※大学生設定


扉がぱたりと閉まったと同時に私はボリュームを絞り目に叫ぶ。

『終わったー!』
「疲れた…、マジ疲れた」

両手をあげて喜ぶ私に比べて心底脱力したかのように宮地くんは扉に体を預ける。
今日の昼までに教授に出さなければいけない課題を二人して昨日まで忘れていたのだ。
図書館の開館時間ぴったりに入り、二人で机を占領。四時間で課題を終わらせた。

「星野、このあとなんかあんの?」
『ううん、なにもない。宮地くんはバイト?』
「今日はなんも入ってねえ」

二人の間に沈黙が走る。
実を言うところ、私達付き合っていて歴とした彼氏彼女なのだ。

「………どっか遊びに行くか?」
『…あ、えと、……うん、行きたい、です』

しかし付き合い始めてまだ1ヶ月。
宮地くんはモテそうに見えて実は中学高校バスケで忙しくそんな暇はなかった人だ。
(本人はモテないとか言ってたけどモテないわけがないと思う)
そして私は中学高校、付き合ったことはない人だ。
そりゃもう二人して途端にぎこちなくなる。
遠慮がちに繋がれた手に内心うわあああああああ!!!なんて悲鳴をあげても宮地くんは当然分かるわけもなく。
そのまま出口まで来て、宮地くんはあ、と声をあげた。
その声につられて私も顔をあげると、上から土砂降りの雨が。

「…傘持ってきたか?」
『…宮地くんは?』
「朝急いで出たからな………」

その言葉から持ってきてないことが察せられる。かくいう私もそのクチだけど。

「この雨だと電車もやべえかもな…。やっぱ遊ぶの中止」
『…うん』
「…そんな残念そうな顔すんなよ、バカ。また今度な」

ぐしゃりと髪が少し乱雑に掴まれて乱れる。
これが宮地くんなりの頭を撫でる、だと気づいたのはごく最近だ。
ついでに物騒とも言われている言葉がたまに照れ隠しだったり。

「…星野ん家入っていい?俺ん家、電車だから当分は帰れなさそうだし」
『え…』
「嫌なら行かねぇよ。お前が決めろ」
『い、嫌じゃないよ!ただ、そのキレイにしてたっけなあって思って…』

あああああもう日頃の私のバカあああ!ちゃんと片付けしなよ!私のバカ!!!
宮地くんがそれでも良かったら…、と私が控えめに言うと宮地くんは別に気にしないとのこと。
そうして宮地くんは上着を脱ぐ。なにするんだろう、と思っていたらそれを私の頭に被せた。
大柄な宮地くんと160cmくらいの私では被せられたパーカーは太ももの中間あたりまである。

『宮地くん…?』
「カッパ代わりに着とけ。暴れんなよ」
『えっ、ちょなに…ひええ?!!』

宮地くんは私を抱き抱えて雨のなか走り出した。
バシャバシャと耳に入ってくる音は激しいし、パーカー越しでも雨は染みてくる。
防御なしで突っ走ってる宮地くん。(しかも私を抱えての全力疾走)

『み、みみみやじくん!?降ろしていいよ!お、重いし…!』
「ああ?!何言ってんのか聞こえねえんだけど!」

雨音で聞こえていないようだ。もう一度更に大きな声で降ろしていいよ!と叫ぶ。

「お前が走るより速いだろが!黙って抱えられてろ落とすぞ!!」

ごもっともなことを言われて私は閉口して、落ないように宮地くんにしがみついた。


「あー…くそ、気持ちワル…」

大学から徒歩約10分にあるアパートに宮地くんはなんと2分でついてしまった。
宮地くんは玄関のところでびっしょりと濡れたシャツを体から離していた。

『うわああ、ごめんね宮地くん。ありがとう…』

洗面所から持ってきた数枚のうち一つをバスタオルを宮地くんの頭にかける。
私は宮地くんのパーカーのおかげで、濡れたもののそこまで酷くはなかった。

「いーよ、別に。ていうか着替えねえよな…」
『…買ってこようか?』
「こんな雨ん中行かせるわけねえだろ。…とりあえず脱ぐからな」

そう言って下のフローリングにシャツがべしゃりと音をたてて投げつけられたようだった。私は持っていた残りのタオルに顔を埋めていた。
怪訝そうな声で宮地くんが「何やってんのお前…」と尋ねられる。

『いや、その…大切にされてるな、と思って』

さっきといい今といい彼女として大切にされている。改めて私は彼女なのだと思い知らされてちょっと恥ずかしい。

「バッ…おま、そんなこっ恥ずかしいこと言うんじゃねえよ!!」
『こっ恥ずかしいこと言わせたのは宮地くんだからね!!』
「うるせえ黙れ轢くぞ!」

脅しのように毎度使われるそれに口を噤む。

「あーもう…、とりあえずタオルくれ、寒い」
『あっごめん…』

タオルを持った手を宮地くんの方へ伸ばすと冷たい手に掴まれた。

「大事にするに決まってんだろが。………好きなんだから」
『………えっなんて?雨の音が強くて…もう一回!』
「ぜってえ聞こえてただろお前…!!!」

もういい二度と言わねえ!!と拗ねてタオルを羽織りしゃがみこむ宮地くんがちょっと可愛かった。
私もその場でしゃがむ。いつも20cmくらいは上にある宮地くんの顔がすぐそばに。

『宮地くん』
「………なんだよ」
『大事にしてくれてありがとう。私も…好き、ですよ』

恥ずかしくなってだんだんと声が小さくなる。
宮地くんは、顔を真っ赤に染めた後に組んだ腕のなかに頭を避難させた。
「もうお前ほんとやだ…」と小さく呟いたのが聞こえた。

宮地清志/黄昏さまに提出






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