逃げ場ナシ 『ごめん、遅くなっちゃった!』 私がそう言いながら障子をあけたのは開始から三十分ほど過ぎた頃だった。 高校の同窓会、設定されたのは居酒屋で既に出来上がってる人もちらほら。 そして奥の方に女の子に囲まれている金色がちらりと見えた。少し髪が短くなってる気がする。 「夢ー久しぶり!」 『あ、久しぶりー元気だった?』 空いた席を適当に探して座ると割と仲の良かった友達である津江が隣の席に居た。 「あー茶髪なんかにしちゃって!」 『自分の髪色見ていいなよ…』 私にそう言った彼女は金色だった。高校時代から派手なことが好きな子で「絶対金髪にしてやるんだー!」と意気込んでいたので不思議ではないけれど。 「似合う?ねえ似合う?」 『あーはいはい似合う似合う』 「でしょでしょ!」 私のおざなりな褒め言葉でも嬉しかったようで満足げに津江は笑った。 テーブルには既に十を超える料理があってどうせお金を払ってるわけだし食べなきゃ損だよねーなんて思いながら自分の前にあった皿と割り箸を手に取った。 「星野さん飲んでるー?」 このエビチリ美味しいなー、なんて頬張っているといつの間にか前の席に男が座っていた。 えーっと、確か中山くん…? 「ちょっと中野ー!酒くさい!」 津江が前の男を睨む。「お前も大概だろ!!」と返した彼は中野くんらしい。 ごめん中野くんだった。声に出してないということでセーフとする。 「星野さん、お酒なに飲んでんのー?」 『私、お酒あんまり飲まないんだよね』 「えー勿体ねえ!こういう機会に飲んどきなって!」 それそれ、と私の近くの空いていたグラスにビールが注がれた。 『えーとじゃあ、気が向いたときに、ね?』 「うんうんそうしなよ!ところで星野さんさ彼氏とか居るの?」 予想だにしないその質問に私はは?と遠慮なく声をあげてしまった。 『居ないよ!全然、そんなの』 いきなり何言い出すんだこいつ!私は混乱でとりあえずそのままを答えた。 すると隣の津江が完全に酔っ払いの目で「あーそういえば」と言い出す。 「夢って宮地のこと好きだったよねー」 『ちょっ、と津江!?』 ぺろっと言った一言は割と重大で。幸いなことに前に座る中野くんには喧騒に紛れて聞こえなかったらしい。 「え、なに?」と聞き返された。 『なんでもない!なんでもないから!』 「えー超気になるんだけど!ていうか星野さん顔赤ーっ!かわいー」 『う、え!なんでもない!ちょっと暑いだけだから!』 そう言ってテーブルに置いていたグラスを一息にぐっと煽る。 と、喉をごくりと通りこしたところで舌にあの独特の辛さ。 『っ?!!』 「あ、それビール…」 呟いた中野くんの声に今言われても…!と思いながら私は意識を吹っ飛ばした。 『ん、ぅ…』 うっすらと目を開けると見慣れない黒の布が目に入った。 …どこですか、ここは。一体。 体を起こそうとすると腰のあたりに置かれた腕。 …だれですか。この腕は。一体。 ちらりと過るのは昨日なぜだか絡んできた…えーっと、中島くん。 中島だったら最悪だ、顔面殴る。なんて思いながら顔を捻るとそこには予想のはるか上を行く人物が。 『みっ、』 叫ばなかった私を誰か褒めてください。 重力に従って下へと流れる金髪に、目を閉じている顔は幼い顔をさらに童顔にさせている。 夢って宮地のこと好きだったよね。津江の言葉が頭をよぎる。…ぶっちゃけ今も好きですけどね! その今でも好きな人が、昨日は近くに行くことさえ戸惑った相手がなんで隣で寝ているのだ。 なにこれなにこれ、なんだこれ。 意味がわからない。これで相手が中島くんだったら(不本意だけども)納得できる。 酔わせて潰れたところを中島くんにお持ち帰りさせられたのなら分かるけど、なんで宮地くん…!? 「…ん、」 『ひょっ』 私の悲鳴にも似たそれに宮地くんがうっすらと目を開けた。 「………はよ」 『あ、おはようございます…』 「…今の状況分かってんの?」 いやもう正直意味がわからないレベルです。正直にそう宣言すると宮地くんが起き上がる。 寝癖ついてる…かわいい…。 「お前がビール飲んでぶっ倒れた。そんで寝落ちして、中野に持ち帰りされそうになってた」 あ、中島くんじゃなかった…。 うええやっぱり持ち帰られそうになってたのか…。中野くん次会ったときは覚悟しておけ。 「そんで、…俺が持ち帰った」 『…はい?』 いや何もしてねえよ。着替えさせた以外は。さすがに寝てる奴にナニしようとか思わねえし、大体あんだけ揺らして起きねえってお前どういうことだよ。 宮地くんは高校時代に比べて髪が短くなった頭を掻いて気まずそうな顔をするが私としては問題はそこではない。 『ここ、宮地くん家…?』 「…そこ言わねえとわかんねえのお前なんなのアホなの」 『いっ、だ』 宮地くんは私のおでこにでこぴんを一発食らわせた。 そして口の悪さは相変わらずのようで。 「…ほかにあんだろ、なんか」 『………お腹が減りました』 「…お前に何か期待した俺が馬鹿だった」 はあああと頭を押さえて大仰なため息をつく宮地くんは「もういい何も言うな」と私に釘をさした。 「…人のこと好きとか言っときながらとぼけるとかホントお前…」 『う、えっ?!』 ききき聞いてたの!?と私が思わず叫ぶと聞こえたんだよ!と宮地くんも負けじと叫んだ。 『な、中野くんにも聞こえてなかったのに…』 「丁度通りかかったんだよ…。つーかそこじゃねえから!」 今なら恥ずかしさで爆発して死ねる。ていうかなんで腕掴まれてるんだろう…。 宮地くんはあーと唸っていたけれど何かを決意したのか私を見る。 「…俺、お前のこと好きなんだけど」 『………は?』 「久しぶりに会ったから喋ろうと思ってたら中野に持ってかれそうになるしお前ふざけんなよ、マジで」 それは私悪くないと思うんですが!と申告するとうるせえと一蹴されてしかも押されてベッドに沈んだ。 「で、返事は?」 『えーと、あの…』 天井と意地悪く笑う宮地くんだけにされた視界。これは完全に、押し倒され…!? 『み、みみ宮地くん?!』 「うっせえよ、さっさと返事寄越せ」 これは完全にノーとは言えないパターンなのでは!? そう言おうとした口は宮地くんに塞がれた。 宮地清志/krk ----- 同窓会ネタが書きたかったんですけどものすごく長くなりました もうちょっとこう…なんだろう…もっと良い書き方があったはず:(;゙゚'ω゚'): いつか宮地さん視点が書けたらいいなーと思います |