クロ 「あれ、」 研磨が待っているであろう三年の教室に迎えに行く。 (なぜ三年かというと体育館から一番近いからだ) 教室の扉の窓から中を覗くと研磨は珍しく硬い表情筋を動かしていた。 机を挟んで向かいに座る女の子は後ろからしか見えなくて、でも楽しげな雰囲気だけは伝わってきた。 「おい研磨」 そこで遠慮する俺じゃねえが。 ガラッと容赦なく扉を開く。振り返った女はクラスメイトの星野だった。 「帰んぞ」 「あ、うん」 俺が声をかけると研磨は隣に置いてあったスポーツバッグを手にとった。 「夢さん、ばいばい」 『ばいばい研磨くん。…黒尾くんも、さよなら』 研磨に応えて、そして俺に顔を向ける星野。 いつの間にそんなに親しくなってんだお前ら。 間にあった机の上にはお菓子が散らばっていて、なるほど餌付けかと納得。 「星野気を付けて帰れよ」 『うん、ありがとう』 星野はにこりと笑って体を元に戻した。 研磨が扉をくぐったのを確認して俺は扉を閉めた。 歩き出すと研磨が俺を見上げてじいっと見てくる。 「…なんだよ」 「クロ、…今日日直じゃないの?」 唐突なその問いかけにはあ?と遠慮皆無な声があがってしまった。 「…黒板、クロの名前があったから」 「…あ」 やべ、日誌忘れてた。 それはもうすっかり綺麗に。研磨に言われてうっすら残っていた記憶をはっきりしたものとして確信した。 「ちょっと行ってくる。先、帰ってろ」 「…ん」 俺は来た道を引き返した。 角を曲がれば星野が教室の鍵を閉めるところだった。 「ワリィ、ちょっと待て。日誌書かなきゃ」 『これ、?』 そう言って星野が鍵を持っていた反対の手を俺に見えるように掲げた。 その手には黒光りする日誌があって。 「…は?なんで」 焦っていたぶん頓狂な声が出た。 『私も日直だもん』 そういえば今年の日直は出席番号ではなく男女一組ずつ組まされたのだった。 担任曰く男女関係なく接してほしいから、という理由だったが勿論大ブーイングだったのは言うまでもない。 「ワリィ、全部させて」 『いいよ』 私黒尾くんに練習して欲しいからー みたいな話にしたかったけど 途中から(むしろ最初から)「ダレコレー(゚д゚)」と思ってしまったので無理でした ←→ |