君のリボンを結んだ僕の両手の下心 「………なにやってんの?」 『えっ!?、わっ!』 集会では校長のクソ長い有難いお話に耐え凍える体育館でもバスケとなりゃ別で。 俺は半袖という季節感丸無視の格好で外に出た。 やべ、寒い。慌てて中に戻ろうとすると道路と体育館を隔てる柵から体育館を覗くここらの中学校の制服を着た女の子が居た。 俺が声をかけると慌てた声をあげる。中学生であるということは偵察ではなさそーだし、この寒空の下で何をしちゃってるんだ、この子。 近付いたその理由はただ一つ、好奇心だ。 『ポ、』 「…ぽ?」 え、鳩か何かなのこの子。 『ポイントガードの、っ高尾さん!』 「あ、…はい」 女の子の勢いに押されて俺にしては珍しく落ち着いた感じだ。どうした俺。 女の子は俺の雰囲気に気付かずきらきらした目で俺を見ている。それこそ、大好きな大好きなアイドルを目の前にした女の子のような。 『すごい本物だ…!』 「…えーっと、俺のこと知ってる?」 『あっ…、えっと、私今年のウィンターカップ見てそれで、秀徳受けようと、思ってて…。それで、受かったらバスケ部のマネージャーしたいなって』 つっかかりながら彼女は精一杯自分のことを俺に伝えて、そして最後に悲しそうに笑って、でも私馬鹿なので頭の方が足りないみたいで志望校変えようかと。 「…諦めちゃうの?」 『はい…』 「やりたいこと、あるんだったら精一杯やったらいいじゃん。まだ受験まで2ヶ月もあんだぜ?」 俺が柵越しにそう言うと彼女は目を丸くして俺を見た。 『でも…』 「だってウィンターカップ見て決めたんでしょ?ウィンターカップ終わったのちょっと前じゃん!て事はさ、言い方はアレなんだけど君はちょっとしか頑張ってねーんだよ」 『…』 「塵も積もれば山になるんだからさ!俺みたいな馬鹿も通るんだから大丈夫だって!」 ちなみに俺の偏差値は秀徳に到底通る成績じゃなかったんだぜー、と我ながら何故か自慢げに言うと目をぱちくりさせた。 『ほんと、ですか?』 「うん。そりゃもー秀徳に通れたのが奇跡なぐらいの」 『………そう、なんですね』 だからさ、柵を掴んでいた手を解いてその一本を自分のそれで絡めとる。 「次はさ、そっち側じゃなくてこっち側で会おーぜ!」 絡めた小指はもちろんお決まりの約束の方法だ。 「俺は今から君を一番上まで連れてくチームをうちの偏屈なエース様と作るからさー」 『ほんとに…?』 「嘘だったら針飲ませていーぜ?」 『っ…約束、ですからね!』 彼女は俺の小指に自分の指を更に絡めて、そして俺に笑顔を見せた。 『それじゃあ私さっそく勉強頑張ります!高尾さんも練習頑張ってくださいね!』 彼女は言うだけ言って、それから恐らく自分の家の方へ走っていった。 彼女がいなくなってから俺は「あー…」と唸りながら顔を押さえてしゃがみ込む。 どうしよう、…惚れちゃったかもしれない。 『高尾さん!』 「へ」 窓の外では桜が咲いていて「おーおー春ですなあ」と一人で呟いていたらその背中にいきなり声がかかる。 高尾さんとはもしや俺のこと?そう思い振り返ると、ポニーテールはやめたのか肩のあたりで髪がふわりと揺れていた。 『約束、守りましたよ!』 「…上等。つかその前にリボン曲がってっから」 ピースサインする前に気づけ。 俺はそう思いながら胸の前に結わえられたリボンを正す。 俯いているせいで彼女には見えていないだろう、俺の顔がどれだけ緩みきっているかなんて。 そういえば名前も知らなかった。まずは自己紹介をしてもらわなければいけなさそうだ、俺だけ知られてるなんて不公平っしょ? 高尾和成/krk 黄昏さまに提出 |