世界が切り取られたようだった。 『柳くんってどうして彼女とかできないの?』 柳くんと放課後図書室でばったり会うことが日課になりつつある日。 私がそう問いかけると本を選んでいた柳くんの手がぱたと止まる。 そうしてそのあと、怪訝そうな顔でこちらに振り向いた。 「…その言葉の真意が分からないのだが」 『え?せっかく顔が整ってるんだから彼女でも作って青春を謳歌するべきだよ』 柳くんは立海で超がつく人気な部活であるテニス部に所属していて、かつそこの三強で呼び名は参謀またはマスター柳蓮二。 学年首席は当たり前、そして顔も整っているし女子への気配りは(紳士、柳生くんや神の子、幸村くんに負けを劣らず)スマートである。 これでモテない方がおかしい。というか実際に柳くんはモッテモテなわけだけども。 答えを待っていると、柳くんは本をまた選び出して、 「…はあ」 何故かため息をついた。しかも深い深いため息だ。 『えっなんでため息…!』 「いや。お前はなんて鈍感なんだろうかと思ってな」 『ど』 「鈍感じゃないよ、とお前は言うが…鈍いぞ星野。にぶにぶだ」 柳くんがいつもの澄まし顔で「にぶにぶ」なんて言うから私は思わず吹き出しかけた。あっあの参謀がにぶにぶとか…! あっでもにぶにぶって逆さに読んだらぶにぶにじゃないか…!確かに痩せているとは言い難い微妙な体型だけども…! 「星野」 『はうあっ!?』 柳くんにいきなり声をかけられて私は変な声をあげてしまった。 しかも私が座っている席の横にいつの間にか柳くんが腰かけている。 『い、いつからそこに…!』 「お前が百面相をし出したときからだ」 それって大分前じゃないですか。 言ってよ!と私は言うけれど気づかない自分も大概だと言ってから思った。 「それと、先程の質問の解答だが」 ぺらり、先程選んでいただろう本の目次を開いて柳くんがそのページへ目を落とす。(実際に読めているのかは私の知るところではない。あ、馬鹿にはしてないです) 「テニスに熱中したい、」 あー、やっぱり。 そんなもんか、と私は納得しかけたが柳くんが「とでも言うべきかもしれないが」と続ける。 えっ違うの!?納得しちゃった私どうなの…。 「俺に彼女や好きな人だとかいう類いが出来ないのはお前のせいだ」 『えっ!?なんで!?』 私柳くんの青春の邪魔をしていた…!?とんだKYじゃないですか…。私それなりに空気読めると思ってたのに…。 「理由が、聞きたいか」 『え、あ、はい!私に出来ることなら協力するよ!』 汚名返上のために張り切ってそう返事私のその言葉に柳くんはふっと笑って「それは助かる」と呟いた。 あ、もしかして好きな人が私の友達とか? 彼女にしたいのは星野だからだ。 私は柳くんの口から出る言葉を一言一句残さず聞き取った。だけれどしっかり理解するのには数秒を要した。 『…、…!?』 「だから俺が青春を謳歌するためには星野が俺の彼女になってもらわないといけないな」 私に出来ることなら何でもする、と言ったな?念押しのように私に問いかける柳くん。 ぱたん。静かな図書室には柳くんの本を閉じる音だけが響いた。 世界が切り取られたようだった。 「大体、何とも思わない奴と図書館で毎日二人っきりになるわけないだろう?狙っているに決まってるさ。それなのにお前と言ったら…「今日も会ったね柳くん、偶然だねー」って毎日会うわけないだろう」 そう笑う柳くんの腕のなかに居る私はその言葉に「鈍感」と言われた意味をようやく理解した。…ほんとにぶにぶだ。 ◎柳蓮二/tns ---- 鈍感ヒロインに四苦八苦する柳さんすっごく可愛いです |