短編 | ナノ

シャットダウンはもう不可能



『あれ、宮地くん…?』
「よー、星野」

なんでこんなとこに。
ガタンと小刻みに揺れる電車のなかでクラスメートの宮地くんに遭遇した。

「遊んでたの?」
『うん、友達と…』

うわあああ宮地くんに会うんだったらもっと可愛い服にしておけば良かったなんて今更な後悔をする。
宮地くんは秀徳バスケ部のジャージで、練習?と問いかけると他校との練習試合だと答えた。

『そっか、お疲れ様』
「おー、…星野ってどこで降りんの」
『ん?あと4つ先ぐらい。宮地くんは?』
「俺は3つ先」

そっか、なんて聞いたわりにあまり良い相槌を打てなくて自分でしょげた。
何を隠そう私は宮地くんが好きなのである。
ただクラスの人気者である宮地くんに好きだと伝える勇気なんてこれっぽっちもなくて、だから遠くから眺めていただけだった。

そうして電車は止まる。微妙に狭かった車内はどうやら乗る人の方が多かったようで私はどんどん壁の方へ追いやられた。
人多!むあっとするような暑さにため息をついていると目の前に見覚えのあるオレンジ色が。

『みっ、宮地くん…!?』
「お前小さいから押し潰されそう」

そんな憎まれ口を叩きながらも私の横に手をついて覆い被さるように宮地くんはそこに居た。
えっちょ、ちかい。なにこれ近い。
さっきも言ったように私はささやかな思いを持っていて遠くから眺めていただけだ。
なのにいきなりこの至近距離は、心臓に、くる…!

『み、宮地くんが大きいだけだよ…』
「まあな、って、うお…っ!」

次にとまった駅でも何故か人が多くて更に壁際に追いやられる。…宮地くんが。

「…悪い、ちょっと我慢しろ」

そう囁いた場所が悪い。だって耳元で。しかもさっきより近くなってて。
もう私と宮地くんの間に隙間なんてものはない。でも宮地くんが踏ん張ってるお陰か私はそこまで苦しくはない。
…訂正、圧迫感による苦しさはない。

『っ…!』

どちらかと言うと好きな人にこんなことされる苦しさを感じた。
苦しいというか心臓に悪い。
ああもうだめ。私は顔を下に向けて耐えることにした。

たまに耳に届く宮地くんの息や鼻に届く匂いが余計悪い。
今なら某漫画の五感を奪う人に奪ってもらいたい。

「あのさ、」
『へ…!?』
「俺も一応男だし、星野にそんな反応されると期待するもんがあるんだけど」

なんなのそれ無意識?
そう問いかける宮地くんに私はそれとかどれ宮地くん!と混乱する。

『そ、それって、どれ』
「…顔真っ赤にしたり俯いたりだよ。…マジで無意識かよ」
『ちが、それは宮地くんだから、!』

思わず言ってしまった言葉はもう取り返しがつかない。
宮地くんはあー、と唸って私の頭を軽く叩いた。

「期待すんぞ、いい加減にしないと」
『期待、って』
「…星野が俺のこと好きとか気になってんのか、とかだよ。…つーか言わせんなよ、刺すぞ」

見上げれば少し頬を赤くした宮地くんが。
心のなかで色んなものが混ざり合う。
近いだのかっこいいだの囁かないでだの。でも一番大きなものは好きだと、そういうものだった。

『き、期待、してください』
「…」

思わず宮地くんのジャージを掴んだ。
私に百点をあげたい行動だった。のに、車掌が宮地くんの降車駅だろうはずの名前を告げる。
つまり宮地くんは降りるわけで私はジャージから手を離さなければならない。

『あ…宮地くん、ここだよね』
「…」

私がジャージから手を離す。宮地くんはそこから動かない。

『宮地くん、電車いっちゃうよ…?』

宮地くんは無言貫くので私がそう申告すると宮地くんは腰を少しだけ折った。

そのため宮地くんの顔の位置が少し低くなる。そうして私の耳元にちょうど宮地くんの口が当たるぐらいの高さ。
え、なにこれ。頭が真っ白になって抵抗もなにもできず呆気にとられたままの私に宮地くんは更に追い打ちをかける。

「…好きだ」
『へ、…』
「明日、学校で返事聞かせろ」

じゃ、くるりと踵を返してドアからホームへ出る宮地くん。
そして宮地くんが出た瞬間にドアが音をたててしまった。

『う、え』

言われた言葉の意味を理解して、死んじゃうかと思った。
シャットダウンはもう不可能


◎宮地清志/krk

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まさか地元の田舎で満員電車に遭遇するとは思ってなかったです
満員というにはちょっと少ないかもしれないですが(笑)






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