短編 | ナノ

好きと嫌いは紙一重



『氷室くん!水分とりなさい!』
「え?ああ、うん後でね」

そう私ににこりと笑顔を振り撒いて氷室くんはシュートを決めた。
ああもう…!今は休憩中だってのに…!
今日は監督も居ないから誰も注意する人が居ない。いやそこは主将いけよ、と言いたいのだけれど主将は主将で休憩中なのだ。しかもうちの主将はあんないかつい顔しておきながらいじられ役、氷室くん相手だと軽々とかわされて終わりな気がする。かくなる上は。

『福井先輩!あれどうにかしてくださいよ…!』
「あ?俺に言うなよな」
『だって…!』
「あーヘイヘイ行きます行きます」

めんどくせーなー、なんて呟きながら福井先輩は立って氷室くんの元へ行く。
ああやっと氷室くんの飲み物が渡せる、なんて思っていたら福井先輩が物凄い速さで戻ってきた。

「俺はなにも言ってねえ…!星野が行ってこい!」
『はあああ!?えっなにそれ何されたんですか福井先輩!』
「氷室…恐ろしい子…!」
『あ、だめだ。壊れた』

ついに暑さでおかしくなってしまった福井先輩を座らせて仕方なく私は氷室くんのボトルを持って未だに綺麗なフォームでシュートし続ける氷室くんの肩を叩く。

『休憩して!倒れたら元も子もないでしょ!』
「…」
『熱中症になったらどうするの!』

熱中症をなめちゃいけないのに氷室くんという奴は!
私は説教する気満々で氷室くんを怒ろうとしたのに、氷室くんという奴は!大事なことだから二回言いました。

「それ、待ってた」

なんてにこりと笑った。え、お説教を待ってたの?とんだMだね氷室くん。
説教するためのテンションがいきなり下がる。そうして口がぽっかりと開いた私の顔に近づく氷室くん。
なにするんだこの人、なんて思っていたら自分の口にちゅっと柔らかい感触と小さなリップ音。
は、いまなにしやがったこの人…なんて考える暇もなく私は体育館のド真ん中で絶叫していた。

『ぎゃあああああ!!!』
「はは、変な顔」
『変なのは元からです!それより今なにしたのこの変態が!!!』

一部始終を見ていた人はどうやら少なかったらしくなんだなんだと周りがざわついているがそんなことはどうでも良い。

「なにって、キス」
『やっぱりか!ていうかなんでそうなる!どうしてそうなった!』
「だって夢が言ったじゃないか」

ねっ、ちゅうしよって。
怒りを通り越して呆れた。氷室くんそれ今時しないんじゃないの。いやカップルならやるかもしれないけどその前に私らカップル違う。え、じゃあキスしたって結構問題じゃない。

『誰も彼氏でもない人にそんなこと言わないし!』
「じゃあ俺が彼氏になったら問題ない?」
『だからなんでそうなる!?ちゅーしてこないで!』
「I'm sorry. I do not know that much Japanese.(ごめんね、俺日本語あんまり分からないんだ)」

今の今までかなり流暢に喋れてましたよね氷室くん!それは通じません!

『もー…!とにかく水分補給して』
「夢が口移しで飲ませてくれたら」
『ごめん言ってる意味がちょっとよく分かんない』

とりあえず倒れてしまうのは絶対的に避けたいのでその整った顔目掛けてボトルを思いっきり投げた。氷室くんは華麗に受け取ったけど。

「なんだ、残念。いつならしてくれる?それとも二人っきりが良い?」
『いつでもしないし二人っきりにもならない!』
「はは、だと良いね」

その顔には見る人が見たら妖しい笑顔が張り付いていて二人っきりになったらキス以上をやらかされるかもしれない。私はとんでもない奴に好かれてしまったようです。


嫌よ嫌よも好きのうち
◎氷室辰也/krk

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最初はただ熱中症って言って欲しいだけの氷室くんでした(笑)






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