曖昧 | ナノ


秀徳との合同練習からの練習試合。リコ姉の隣に座り、選手一人一人の様子を何度もデータと見比べ書き加えていく。まだまだ彼女の足元にも及ばないが、俺もアメリカでただ遊んでいたわけじゃないんだ。
(もっと、皆の力になりたい)
練習試合後に俺を呼び止めたのは真ちゃんで、鈍っていないだろうな?その言葉には曖昧に笑った。それに疑問を抱いたのか、どうしたなんて聞かないでよ。何でもないのだよー!笑って誤魔化してみても、それが通じる相手じゃ無い事も知っていた


「何を隠しているのだよ」
「あー‥まあ、色々?」
「抱え込むのは昔からの悪い癖なのだよ、話せ」
「‥‥俺な、実は」
「幸、何してんだよ行くぞ!相手してくれ!」


言葉を遮った火神君を睨む真ちゃんにまた今度、とだけ伝えて背を向ける。無理をするな、それに片腕を上げて返事。無理なんか、とっくの昔にしてしまって、もう壊れているんだよ。
リコ姉にひたすら走らされていた火神君の相手は中々に疲れる、だけど攻略法は心得ているつもりだから上手く躱しながら相手をしていた。そうして少ししてリコ姉が来て、走らせていた理由を火神君に告げて楽しそうに笑う姿に心の奥がチリッと焦げるような感覚。ああ、この人を夢中に出来ない自分がもどかしい


「‥火神君、今日はもう終わりな」
「え、おい幸?」
「また明日なー」


あの頃に戻りたい、そう思った事は何度もあった。向こうで告げられた言葉に、新しい道を見つけた。だけど、それでも未練は残るに決まっていた。あの歓声も、照明の眩しさも、体育館に響く音も、全部はっきりと覚えているのだから。あの頃が楽しかった、ぽつんと溢した言葉に気付けば溜息しか出なくて。情けね、落ちた言葉をそのままに皆がいる部屋へと戻った。
そうして合宿最終日、秀徳の監督さんに呼び止められ告げられた内容に瞬きを繰り返す。どうだ、悪い話じゃないだろう。それに首を左右に振り、すみませんとだけ謝り背を向けた


「誘われてた?」
「ん?」
「秀徳さんに、よ」
「断った、俺は誠凛以外に通う気は無いから」


窓の外を眺めながら、それだけ言って口を閉ざした。まだ何か聞きたそうな雰囲気は感じたけれど、これ以上は何も話したく無くて。そして着いた体育館、懐かしい雰囲気に思わず息を呑む。向こうに行くわよー、その声に続こうとして視界の隅に捉えた桃色の髪に、進む方向を変えた。
さつき、呼び止めたその背。振り向いた彼女の驚いたような顔はいつかのリコ姉とよく似ていた。幸ちゃん‥?確かめるような、問い掛けに久しぶり。右手をひらひら振って見せれば、迷わず彼女は俺に飛びつく勢いで抱き着いてきて。その細い身体を慌てて受け止めた


「幸ちゃん、大ちゃんを助けて‥!」


悲痛な叫びにも似た縋る想いに、泣きそうになった


謝罪も、弁解も、許されない


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