曖昧 | ナノ


アメリカに行け、その言葉に足元が崩れ落ちそうな感覚になる。リコ姉、そう言って私の隣に立つ幸が居なくなって二年。やっと、彼は帰ってきた。足が治るなら行くべきだとわかっているのに、頭では理解しているのに心が全くついてこない。中学時代、気付けば遠ざかる背に怯えていた。雑誌に取り上げられ至る所で騒がれている幸は、私の知っている幸じゃない。こんな子、知らない。
(耳を塞いでしまいたくなったのは、きっと他の誰でもないあの子のはずなのに)
少し話がしたいんだけど、あの日からずっと幸から逃げていた私に痺れを切らしたのか教室までとうとう捕まえに来た。諦めてその背へ続き、向かったのは屋上


「聞いたよ、ここで決意表明やったんだって?」
「‥それがなかったら、カントクはやってなかったわよ」
「じゃあ、俺も向こうに行く前にしておこかな」
「え?」


大きな声出すと叱られるってテツヤが言ってたから、リコ姉だけに。そう言って、私を見つめる眼差しは何よりも優しく、不思議とずっとざわついていた心が落ち着いた。ただ向き合った、それだけでもう背中を押す覚悟が出来てしまう。
幸が口を開くより先に、頑張ってきなさい。そう呟いたら少しだけ驚いたような顔をしてすぐ俺が先に話したいんだけど!と拗ねるから笑いそうになる。降旗君達は幸の事を大人びてるとか、同い年じゃないみたいだと度々言うけれど私にはいつだって情けなくて泣き虫な、昔から変わらない彼


「ごめんね、じゃあ改めて決意表明を聞かせてもらうわ」
「‥俺、紺野幸は必ずバスケが出来るようになって日本へ帰ってきます!」
「期待してるわよ」
「ありがと、それともう一つ。その時は、もう弟じゃなくて一人の男として俺と向き合ってください。ずっと、リコ姉‥‥違うな、リコさんの事が好きです」


瞳の奥が、揺らぐ。答えはずっと私の中にあったモノだから、この場で返事をする事は簡単だ。だけど、それを彼は待って欲しいという。俺の手術が成功してリハビリも乗り越えて日本に帰ってきた時に聞かせて欲しい。じゃないと悪い結果しか予想出来ないから、心が折れちゃいそうで。なんでもないような振りして情けなく笑うから、餞別に言っておいてやろうじゃない。
悪いけど、いい結果しか用意する自信が無いわ。にこり、見上げてすぐに背を向ける。意味をなさない母音ばかりを口にする幸を軽く振り返ってみれば、顔が真っ赤で今度こそ吹き出した


「全く!しっかりしなさい、中途半端は許さないわよ!」


やっぱリコ姉には敵わないや、微笑む彼の姿を刻みつけその背を見送った


二人で笑う未来の為に、歩き出す



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