周りの歓声とは180度違う表情で淡々とゴールに向かって撃たれるボール。テツヤ、ナイスパス。その時だけは見れる彼の笑顔に何度も心を痛めた。でも、本当に傷つきボロボロなのは幸君だ。
あの日から突然、一軍に合流した彼は練習をする度に、試合をする度にいつもの彼を知っていた面子から見れば一目瞭然。ただただ、静かに壊れていった。何も出来ない自分がもどかしいのに、どうすればいいのかわからずただ傍に居続けるだけ


「紺野、もっと走れ!遅い!」
「はい」
「周りは気にするな、お前なら何処から撃っても大丈夫なんだ」
「はい、」


前半だけでもう逆転は不可能な程に点差はついていた。これのほぼ全てが幸君の得点。
オーバーペースのせいか肩で息をする姿を見ていられず監督に少し交代を、そう言おうとしたら彼の右手がボクの口を塞ぐ。大丈夫だから、そう微かに音となって出た声の弱々しさに涙が出そうになった。
(どうして、幸君がこんな想いをしてまでバスケをさせられるんだ…)


「後半だ、行こう、テツヤ」
「はい…」
「絶対に負けないから、そんな顔すんなよ、な…?」
「っ、!」


誰か彼を助けて。そうコートの中から叫びたかった。今じゃバスケ雑誌で大々的に特集される程に幸君は注目され、大会があれば観客は挙って彼の名前を叫ぶ。今日も頼むぞ、とか、何点入れてくれるんだ、とか。それに手を振り曖昧に笑う姿を見つめるだけで、救い出す力の無いボクは溢れそうになる涙を下唇を噛み締め堪えるばかりだ。
テツヤ、ナイスパス。その声と共に出される拳を合わせる度に祈った。心から笑ってバスケをして欲しい、と


「幸君、帰るそうですよ」
「おう、」
「‥ボクの肩を貸します、立てますか?」
「ん、悪い」


試合終了のブザーが鳴り響いて、帝光はまた一つ勝ちを積み重ねた。そして幸君はまた一つ、光を失う。
一軍であろうと二軍であろうと、もちろん三軍の試合であろうと監督はいつも幸君を連れていった。ボクも呼ばれはしたがたまにだけで、その理由は知っている。監督に頭を下げる彼の姿を見てしまったから。
(辛いのは君だけなんて、それは逆にボクも辛いんです)


「紺野周りを待たせるな、行くぞ」
「はい、すみません」
「‥‥幸君、ボクは決めました」
「テツヤ?」


ボクは君の影になる。だから、その苦しさもボクの物です。一人で抱え込ませはしません、そう笑いかけた。

監督の言う通りにします、だから、テツヤだけは俺に任せてもらえませんか。

一軍に合流しても体力は無い、今のパスというプレイスタイルを身に付けたのも最近だ。そんなボクを君は守ろうとしてくれた、だから今度はボクが君を。
(守れなくても、支える事は出来る)


「ボクは壊れたりしません、だからいつも傍に居させて下さい」
「でもテツヤのそれは、40分フルに」
「わかってます、それでも出来る限りのサポートはさせて欲しいんです」
「‥‥ありがとう、」


ああ、やっと彼が少しだけ泣いてくれた。青峰君の前では泣いていた事を知っていたし、どんな意味であれ二人が互いを特別に思っているのはわかっているつもりだ。
(君達の眩しさに、いつも目を細めているばかりじゃ駄目なんだ)
二人の関係に、ボクも少しだけ入れたような気がして嬉しかった。どんなに辛くても、ボクは影として君という光と共に在り続けたい。儚い自分勝手な願いだとしても、諦めるのだけは絶対に嫌だから


君を救う光に、なりたかった


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