「テツヤが火神君を選んで安心したよ、心底な」


その言葉に、思わず顔を顰めた。アイツと知り合いなのかとか、どうしてそんな事言うんだよとか言いたい事は山ほどあったのに。それでもお前は、俺に蹴られ蹲った先輩を庇い、支え体育館を出て行ってしまった。
あの日から、幸は俺にあまり近づかなくなった。と、言っても二日くらいの話だ。転入の手続きというのか、取り敢えずバタバタとしているらしい。さつきが幸ちゃんを困らせないで、と珍しく必死だったから追いかけたくなる気持ちをぐっと堪えたのもそろそろ限界だ


「幸!」
「あれ、どした?」



また部活サボってんのか、どうしようも無い奴だなあ‥と苦笑いの姿に内心ほっとした。幸をあの行動で怒らせたのは間違いない、其処まで落ちてんのかって言われた時は心臓が嫌に早く動いて苦しくて。コイツに嫌われた日には、俺はきっと更にどうしようもない奴になるに決まってる。
(それくらい、幸はオレにとって大事なんだよ)
なあ大輝、俺とならバスケしてくれるか?その問いには素直に頷く、これ以上距離を開けられてたまるか。やった!嬉しそうに笑う表情に、一度だけぎゅっと抱き寄せた


「おーい、大輝くーん?どしたー?」
「二日も無視しやがって」
「寂しかったのか」
「‥‥悪いかよ」


むすり、としてみたら何度か瞬きを繰り返してから幸はわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。何すんだ、ヤメロ。口ではそう言いつつも振り払ったりはしないのは、全部コイツがやっている事だからだ。
大輝がいつもバスケしてるとこ行こう!それに頷いて、鞄を持ち上げ歩き出す。久し振りに幸とした1on1は楽しかった、だけど昔みたいなもっと強くなりたいって感情が大きくなる事が無くて理解した。幸は、今までずっとそれを隠してたんだって事を


「お前‥その足、どうしたんだよ」


目を見開いた幸に、下唇を噛み締めた。あの日、あの時、自分がもっとバスケが上手ければ。後悔ばかりが押し寄せて、だけど赤司に少しだけ感謝をした瞬間でもあった


詰め込んだ夢と希望は、押し潰され絶望に変わる


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