ボクは逃げ出した、彼の目からは逃げられはしないとわかっていても。
幸君が部活に顔を出さなくなって約一ヶ月、青峰君とは違いボクはずっと彼を避けた。声がすれば逃げ出して、姿を見つければ背を向ける意味の無い事を繰り返す。その度に幸君がどんな顔をしていたのかなんて、幸君を見ようとすらしていなかったボクが知るはずも無かった


「逃げるのは、諦めてくれた?」
「!、幸君‥‥」
「あー‥その顔は、まだ逃げてるつもりだったか」
「やっぱりボクは君から逃げる事は出来ませんね」


出来てただろ、この一ヶ月。その言葉に苦笑いが漏れた。
君が逃がしてくれていたんでしょ、ボクを。捕まえようと思えば出来るのにしなかったのは、間違い無く幸君の優しさだ。その優しさにただ縋り、甘えて苦しめた。だから合わせる顔がないと怖くて逃げ回っていたんだ。
(向き合うべきなのに、それをしようとしなかった)


「テツヤ、俺はお前に縋ってた」
「え?」
「確かに大輝や赤司が居たら楽しいし、バスケも張り合える。でもあの時の俺は、テツヤの優しさに甘えてたんだ」


それが嫌になって、俺から逃げたんだってわかってる。そう悲し気に下がる眉に、慌てて違いますと否定をした。違う、優しいのは幸君だ。ボクの独りよがりな行動に何も言わず、更には支えようとしてくれていた。
一人になって気付いたのは、やっぱり君の優しさだったんです。そう零したボクを幸君はぎゅっと抱き締めた


「苦しめて、ごめんな」
「っ、」
「そのテツヤの考えに甘えてたのは事実だ。それに支えたいとか守りたいとか馬鹿だよな。俺達は俺達の出来るバスケを、精一杯楽しんでやれはよかっただけなのに」


だからテツヤも、また楽しくバスケをやって欲しいんだ。その言葉に何度も頷いた。そうして頬を流れる涙が静かに幸君の制服を濡らす。
(本当に君は、優し過ぎますよ)
それから、また彼は必ずボクを見つけては声を掛けてくれるようになった。テツヤ、おはよ。その笑顔の眩しさに目を細めながらも、微笑んで返事をする


「おはようございます、幸君」
「そういや大輝に聞いた、昨日倒れたんだって?」
「あれはちょっと頑張り過ぎただけです、大丈夫ですよ」
「いやいや、テツヤは俺が見てないとすぐに無茶するから」


まあ、これからはちゃんと見ててやれるけど。その言葉に続いて来週からまた宜しくな。と言われた言葉を自分の中で消化するのに手間取る。え?そんな間抜けな声を出したボクに向かって、監督と赤司に話はしたから。まあ、俺は二軍だけどと頬を掻く幸君に思わず飛び付いた。うおっ!とか言いながらもボクを危な気無く受け止めてくれた事へのお礼は置いておく。今はまた君とバスケが出来る喜びが大きすぎるから。
そして幸君が言っていた通り、一週間後の放課後。ただいまー!そう大きな声が響き其処には出会った頃と変わらない笑顔の君が確かに存在した


おかえりなさい、と抱き締める


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