灰崎には何も言うな、そう言われていたのは嘘じゃない。だけど私が話したってきっと赤司君は何も言わないだろう。じゃあ話さなかった理由は?そう問われたら答えはただ一つだ。
(私だって、幸ちゃんを守りたい)
彼が言っていた通り、大ちゃんを見つけたけど泣きそうになっているであろう自分の顔を見られたく無くてそのまま横を駆け抜ける。そうして来たのは肌寒さを感じる屋上、呼吸を整えていれば聞こえてくる足音に振り向いた


「幸、ちゃん‥?」
「大輝の傍に居ろって言っただろ、馬鹿か!」
「だっ、だって、」
「女の子が、一人で泣いてたら危ないんだからな」


見つけられて良かった、そう言って笑った姿にかあっと顔が熱くなる。別に大丈夫だった、なんて可愛くない言い方も彼は全く気にしない。
(良い意味で幸ちゃんが馬鹿で良かった)
俺は心配だったんだ、そう胸を張りながら言い切った姿に笑ってしまいそうになる。さっきまで泣きそうだったのに、なんて考えていたら優しい体温がぽんっ、と私の頭を撫でた


「しょーご君はさ、下心があった訳じゃないから」
「私には、でしょ?」
「流石、御名答」
「まさかあの後、何かされたんじゃ」
「いや、何も」


にこり、嘘の笑顔を貼り付けた幸ちゃんにむっとしたらばれたか、と苦笑い。部活に来なかった一ヶ月で、確かに戻った笑顔を見ていたからこそわかった。簡単に誤魔化されてあげないから!と今度は私が胸を張る。私だって、幸ちゃんの力になりたい、それが叶わない事だなんて思いたくない。
(出来る事は、必ずあるはずなの)


「まあ俺は大丈夫だから、さつきが気を付けるように」
「はーい‥‥」
「うし、教室まで送る。帰ろー」


肯定の返事をした私の手を当たり前のように握るから、思わず身体が強張る。ん?と不思議そうに顔を覗き込んで来た幸ちゃんには苦笑いが漏れてしまった。意識なんかされていない、わかってる。
教室に戻るまで離されなかった手に、当然集まる視線。大ちゃんと一部の女子が同じような表情で私を見て来たからとても複雑だった。恋をすれば男の子も女の子も一緒って事かな、取り敢えず赤司君にバレませんようにとそれを祈るだけだ


叶わぬ、願い事がある


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