12
「じゃあどうして、赤司君は彼女を何でもないような位置に置いてるの‥!」


一度居なくなったと思っていたらまた現れて、オレの隣をずっとついて回る名前も知らない女子生徒。ソプラノの声は高くて甘すぎる、自分の耳に馴染まず苛立ちばかりが募った。赤司君、お疲れ様。それを聞きたいのは、お前からじゃない。差し出されるタオルやドリンクは受け取らずに、桃井の傍に行き手を出した。
(早く来い、睦‥)
遅れて来た彼女の驚き様には少しだけ笑えたけれど、青峰に何かを問うような視線。それをどうしてオレに向けない、なんて醜い嫉妬に深い溜め息を漏らしていれば睦に群がる軍団に声は冷えた


「睦が赤司に話があるそうなのだよ、二人で」
「へえ、じゃあ今から行こうか」
「あの、え、緑間君何その裏切り、え?」


緑間の言葉に彼女の腕を引っ張り旧校舎に向かった。昼まであの女子生徒に潰されては困る、そう思っていたから丁度良かったなんて言い訳で。二人きりになる機会が少な過ぎて、無理矢理にでも二人になって話をしたかったのはオレの方だ。
練習量の話をしてくる睦に凭れれば、疲れてる?その問いに笑う。ああ、とても疲れているんだ。そう言ったら、何かを思案するような雰囲気に顔を上げようとしたのに。自分を包む温もりで、動きは止まった。頭を抱え込むようにして抱き締められ、落ちて来たのは近くで聞きたかった優しく響くアルトの声


「赤司はいつも一人で頑張り過ぎなんだ」
「睦‥、」
「私は、そんなアンタが心配で仕方が無い」


監督やコーチと次の試合の話し合いで部活を抜けていた時があった。終わって早々に体育館へと戻れば上級生を睨み上げる彼女を見つけ何の騒ぎだと問い掛けたけれど、怒りを滲ませた彼女とすぐに目が合った。結局青峰達から聞いた話で、オレの事を悪く言うような言動や態度に睦が怒ったらしく。ああ、だからオレにはお前が必要だと再認識した瞬間だった。
彼女を何でも無いような位置に置いているのでは無く、オレがどうしたいか今もまだ悩んでいるんだ


「次はサボる」
「勝手にどうぞ」
「睦もだ」
「は、?」


ぽかん、とした表情を見ながら微笑む。伝えたい事は決まっていた、だからこそ伝えてもいいのか悩んでいた。彼女に、オレを特別に思う意識があればと願うだけの臆病な自分。今はただ、嫌がる彼女にまた笑いながら膝枕を強要して目を閉じるだけ。
諦めたように息を吐き出せば、オレの勝ち。けれどおやすみ、と優しく呟く彼女の声で局面はいとも簡単にひっくり返る。ああ、いつも敵わない


特別たる所以は、彼女であるが故




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