銀土*銀魂 | ナノ


▽ 死因:嫉妬は恥晒し


 


「まずは〜あ〜〜〜言いたくねえんだけど。言わなくちゃダメなやつ?」
「当たり前だろ。死にたくなかったら言いやがれ」
「やだやだーほんといやだー。なんでこんな高圧的な奴と付き合ってんだろ俺〜イヤ過ぎてムリー」
「そりゃ良かったな、俺の台詞だ。この部屋から出たらどこへでもいって野垂れ死んぢまえ」
「どっちにしろ死ぬじゃねえかよ、ふざけんなカス。はーい手前が死ね」
「誰が死ぬか。てめえが死ね、つかここで死ね」

 ローテーブルに向かい合って座る、暑苦しい男二人。口論は収まらないものの、手は握ったまま。視線は合わないものの脚は絡ませている。

 なんて素直じゃないカップル――と言いたいところだが、それは大きな間違えである。

 いま二人が立ち望んでいるのは立派なデスマッチ……生きるか死ぬか、その二つである。まあ今の衝突を見るに、将来は【Die or Die】死ぬ? 死ぬ? みたいなものではあるが、本人たちも死ぬ気で頑張っているので、そこはおいといて。


「つかなんだよこの部屋〜意味わかんないんですけどお。土方くん働きすぎじゃない? どこのジョーイに喧嘩売ったらこんな部屋に入れられるわけ? 逆に尊敬過ぎだわ」
「ラップみたいに攘夷言ってンじゃねえぞゴラ。もっと真剣に悩め。てかこの部屋てめえが連れ込んだとこだろうが。主人公の癖に一夜限りの付き合いしかしねえとか本誌でほざいてたせいで、また制裁回がきたんじゃねえのか。てめえのせいだやっぱり切腹しろ」
「はあ?? あんなのジョークだし。びんびんにジョークだし、そんなユーモアあふれる男だから銀さん。まじテンションあげて生きてるから俺。まず、ここ何カ月土方だけなの手前が一番知ってるだろうが。なに、銀さんが信じられないわけ? 俺スパダリ銀さんだよ?」
「てめえは全部ダルダルだろうが。スパスパしてんのは包丁さばきだけだろ。いやむしろ俺の方がスパスパしてるわ、今もしてるわ。めっちゃしてるわ」
「それ煙草だろうが。ふざけんなよ、手前がボケ回ったらこのカップル成立しねえだろうが。キャラかぶりも甚だしいわ。……てかなにダルダルって!!? 俺の腹か、腹なのか!? 言ってみろ土方、俺の腹見て言ってんのか!」
「そうですけどー!? 他に何があるんだよッ万年菓子ばっか食いやがって!! 会うたびにスイパラ行くんじゃねえよ! バレんだよ隊のやつらに!!」
「はあー!? バレてないと思ってんの手前だけだからね!! 俺とか付き合い始めた当日に社員に伝えたわ、つか真選組にも伝えたわ!! あとな、スイパラはスイートなカップルしか行けないパラダイスなんだからな!! 俺達が行かなくて誰が行くんだよ!!」
「むしろ誰でも行くわ!!!! 俺たち以外皆行くわッ! つかてめえかーーーッ!ばらしたのーーーーー!!!」
「あ、口が滑った」

 白い部屋の中に土方の声が反響した。色のせいか声を吸収してくれる気がしたが、そんなことはない。手を絡ませ合える距離にいたということは、ダイレクトに土方の声が耳に入るということで。
 銀時はあまりの声の大きさに、繋いでいない方の右手を持ち上げ耳の穴を塞いだ。
「クソうっせー」
 その表情は言葉通りうるさいと言っていた。





[chapter:死因:嫉妬は恥晒し]




 どうして二人が手を繋いでいるか。それはすべてこの部屋に関係している。

 この部屋は通称、『命令部屋』と呼ばれるらしい。壁に書いてある。

 昨日真夜中まで繰り広げられた“布団上の争いver.健全な相撲”のせいで二人してぐっすりグッドナイトしていたところ、先に目を覚ました土方が大声を上げたのだ。
「なんじゃこりゃーーー!!」
 昭和チックなのはノスタルジーなので許してほしい。いや本当はよく分かってない、横文字が使いたいだけなのである。

 彼の声にたたき起こされた銀時が、「敵襲?お疲れ様」と二度寝をしたところテクニカルヒットを決められたのだ。ちなみにその際に受けた傷はまだ癒えていない。あと許してもいない。

 寝る前と後で違う部屋にいたのであれば、誰でも驚くことだろう。殊気配には敏感な二人だ。誰にも気づかれず仕込むなんてこと、酒を飲まない限りはない――あ、飲んでたわ。てかホテル来る前に飲んでたわ。あっちゃ〜。そりゃ頭痛いわ。
 それはおいといて。



 テーブルの上には一枚の紙があった。

 そこには、
『嫉妬したら死ぬ。部屋からは出さん』
とだけあった。


 嘘だあ〜。
 てか嫉妬ってなに?
 マヨネーズかけたら旨いのか?
 そこは宇治金時だろ〜。
とか言いながら二人でローテーブルに向かい合って座り、足を絡め合って遊ぶこと十分。性行為のあとのふたりはネジが相当緩く、あっぱらぱーなのだが、それも異常事態においては戻りが早くなっていたらしい。


「え、やばくない?」
 先に正気に戻った銀時がそう言った。

 それにたいして土方が、
「嫉妬ってカリカリしてんのか……ふわふわか……やいたほうがいい……?」
と言った。

「手前もいつまでふわふわしてんだ、おいこら戻って来い。がばがば土方。あれぐらいの運動で脳内まで溶かされてんじゃねえよ。昨日は三回で止めただろ」
「三回が少ないわけねえだろバカ。てめえのせいでこっちはガバガバなんだわ、次はてめえの尻だせ」
「いいじゃん入れやすいし、あとガバガバなのは手前の脳内だから。もう治らないから、不治の病だから。あと尻は貸さん」
「けち」

 それから近く何を思ったか土方は無言になり、ボーっとしていた。時々鼻歌まじりに、「ももんがーもーん。ふふ〜ふ♪ ふ〜ん♪」と歌っていた。違うこれは馬鹿なだけだ。ネジが溶けていっただけだ。わりと性行為後の土方は……ry。


 それから四半刻ぐらいが過ぎ。
 やっとこさ正気に戻った土方がむすくれたのを見て、内心銀時はホッとした。あれ以上幼児化したような頭のおかしな土方を見ていたら、こっちの方がやられそうだった。
 日頃仕事中にすれ違っても、飲み屋であっても、言い合い手の出し合いの応酬で。甘い雰囲気なんて一個もない。付き合ってからもそれは変わらず、未だに『好き』だとかそんな言葉はきいたことがない。初めからぜんぶ銀時の方が仕掛けているだけで。
 土方が甘える……というか外壁が崩れる瞬間は、性行為後のあの瞬間だけだった。しかもその崩れ方といったら、もう、堪らないほど可愛いのだ。感覚的には小さい子どもを見ているような気分にすらなっている。

 こんな大変な部屋に閉じ込められているというのに、そんな場合ではない。
 キチンと話し合おう。


 そして、まず、今まで嫉妬してきたことを口に出していけばお互いにそれを避けようとして行動を見直せるのではないか――そう発言したのは、あっぱらぱーモードから鬼の副長モードに切り替わった土方の方だった。
 いつもの常識人に戻った彼を見て安心した銀時は、喜んで、ろくでなしに戻ったのだった。

 それが話の冒頭である。








 まず考えて欲しいが、自分の嫉妬したことを相手に伝えるということはどれだけ恥ずかしいことなのだろう。
 もしも想像してみて自分が【むり〜!】となったのであれば、それは幸いだ。人に押しつけないでほしい。できないものはできないのだ、だって俺にだって、プライドというものはある。
 それをどうしたことか土方は、
「早く話せ。そして死ね」
とどこぞのサド王子のようなことを言い出した。

 やだこの子〜自分の後輩に思考回路汚染されてるわ〜なにそれ彼ピの前で違う男のこと出すとかさ〜嫉妬しちゃうよ、俺? スパダリ銀さん崩壊だお〜。

 とかふざけたことを考えたときだった。

―――グシッ

「っ……て、めえ…なに考えやがった、!」
「ぅ、ッは……なんも? つかなんで俺なわけ…?」
「はあ……っ、は。俺は何も考えてなかったからだ。クソこんな感じかよ…」


 ブツブツと呟く土方を尻目に、銀時は、
(これヤバいやつだ――)
と直感した。

 はじめ“嫉妬”と聞いて何も浮かばなかった。今まで自分は嫉妬とは無関係な性格だと思っていたし、なにより土方のことでそんなに悩んだことが無かったからだ。なんとなく好きだと思ってこっちに引きずり込んで、なんとなく付き合って、ふざけたことを言って喧嘩をしてみて。
 なかば犬猿の仲を引き摺っていたのだから、こんな、『自分のことだけを見て欲しい』といった嫉妬らしき感情を感じたことが無かった。土方のために、腸が煮えくり返るほど他人を恨んだことはないし、土方を誰かに盗られたくないと心から望んだことはないのだから。
 ただ言えることは、今の土方は、そのまんまで土方なのだから、こちらが手を加えて変にしてしまえば――それは彼ではないと思っていた。

 それがどうだ。どうしたってこんなに、心臓が物理的に痛むんだ。
 まるで本当に心臓に錠がかけられたみたいにキリキリと痛み、喉が苦しくなるんだ。
 この感覚は恐らく土方にも伝わっているらしい。どちらかが嫉妬すれば、どちらも苦しむ羽目になる。それはつまり――どちらも死ぬ。

「はあ………」

 息を落ち着かせるため、という名目で銀時がため息を大きくついた。それを横目で見ていた土方が、若干不安そうに唇の端を下げていたが、銀時はあえて気付かないふりをした。
 今から言うことは、相当に土方のことを不安にさせるだろうと分かっていたからだ。


「あんさ土方くん」
「ンだよ……」
「俺たぶん、死ぬかもしんない」
「はあ?」
「うん。今気づいたんだけどね、俺、嫉妬深いわ」





おしまい



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