銀土*銀魂 | ナノ


▽ 最初のコンビニにて


 


土方が商品棚を曲がっていったのを確認して、頭を抱え込む男がいた。
―――坂田銀時だ。
大きなため息を吐きながらその場にしゃがみこんでいた。


「父ちゃん〜」
「……ンだよ」
「ひじたちゃせんせーさ、かわいいでしょ? おようふく、首まであるの」
「ほんとだわ……なんなのあの人。黒のピチッとしたタートルネックとか、エロすぎでしょ……てかまさか、あれ、エプロンの下にいつも着てるわけ? とんだコスプレじゃねぇか。それよりなんで眼鏡かけてないの?めちゃくちゃ目、可愛くない?エロくない?うわ……あれ泣いたらどうなんの、目尻とか赤くなんじゃない?」
「なにいってんのかわかんなーい」
「とぼけんな、バカヤロー」

銀時は、毎日あんな格好見てる息子が羨ましくて恨めしくて、息子の頭を軽くはたいた。
それでも叩かれた金時は鼻唄でも出そうな勢いで、
「せんせーあげないもんねー」
と笑っていた。

年相応ではない、ニタ〜という笑い方で。
それを見た銀時は、
(嫌なところは親に似るもんだな)
と感心していた。


そのため銀時は、子どもがいる前では土方にカッコいいところを見せようと、少し無理をして、
『気怠そうな大人のオーラ』
を出して話すようにしていた。

こんな自分の息子に大好きな先生を取られたとあっては、生涯泣き寝入りもできたものじゃない。






土方は今年からこの大江戸保育園に配属になった、新任保育士だ。

男性保育士というものがだんだん珍しくなくなってきた今日であるが、土方ほど人目を惹く美人な男の保育士は存在しないと思う。
あと、笑顔を作れてると思ってるところが可愛い。あんな引きつった表情、無理してるな〜ってすぐわかんのに。そこが馬鹿可愛い。

銀時なんて、挨拶された初日の車でオナニーしたぐらいだ。
もちろん土方の乱れる姿を想像して。

毎日会うんだから変に意識をしたら面倒になる。
そうでなくても息子の担任なんだし、話す機会は多いのだ。
そう思って、土方に会ったときは適当に「はあ」だったり「へーい」だったり言うようにしていたのだが……まさかコンビニで会うとは。盲点だった。


てかなんで、いつもの眼鏡がないの?
あの眼鏡があるからちょっと防御されてる感じがして、銀時だって抑えられているのだ。なのにその眼鏡がないとは―――身ぐるみを剥がれているのと同じじゃないの!?

銀時は大声を出しそうになったのを抑え、「うう"ん!」と咳払いをした。


しかも何なんだあの服装?
あんな保育士がいても良いの??

サッカー選手さながらの細身の黒のインナーは、土方のからだの線の細さを強調して、物凄くエロい。というか見せつけてるとしか思えない。
いつもはエプロンをしているため横からしか見えない服も、こうも脱がれてしまっては、全体が見える。そりゃもう、くっきりはっきり。

しかも、しかもだ。
微妙に勃起してるのだ。

ナニがって────乳首がだ。


「あ"〜きっと土方先生気付いてねぇんだろなァ」
「なにがぁ?」
「おっぱいだよおっぱい」
「せんせーのおっぱい、おもちろいよ?」
「は?」

銀時が車に乗りこみながら適当に返事すると、金時が恐ろしいことを言い始めた。

「ツンツンするとね〜へんなかお、するんだぁ」
「いや……うん? うん?! それどんな状況!?羨ましいんだけど!!?」
「おひるねのときねむれないから、あそんでたらね。おっぱいほちいのか? って、へんなかおでわらうんだ〜かわいいの」
「ん"ん"ん!!!」

思わず鼻血が出そうになり鼻を押さえる。
なんて刺激的な話ッ…………てか変な顔になるってのは、感じてるってこと?感じてるでFA?
まじかよ!
あんな、誘ってるみたいな服着ておきながら乳首勃起させてるとか変態さんか!ヤバいな大好物です!!ありがとう先生!!!大好き!!

「はぁあ〜〜俺もピンポンだっしゅしてーよォ……先生の一等地に潜り込んで、夜明けまで永遠にピンポンだっしゅして呼び鈴いぢめてぇよ……」
「?」
「マジでなんで先生、担任なわけ……最高じゃん……銀さんの銀さん、休む暇ねぇよ…」

金時の『ちょっとなに言ってるかわからない』という表情を横目で見ながら、無視を決め込む。いくら我が子とはいえ、良いセンスの持ち主であるコイツは、何だかんだ自分のライバルになりそうだからだ。
言った言葉の意味を教えてやるほど銀時も優しくはない。むしろ、土方の話になると子役も真っ青の演技をする金時に、手加減をしている暇がないのだ。
気を抜けば土方の魅力に(欲情という意味で)好きになってしまう気配すらある。

親子で同じ人間を……しかも先生を、取り合う羽目になるだなんて真っ平ごめんだ。


「手前にはまだはぇー話だ」
「きんちゃんわかるもん!赤ちゃんのおにいちゃんだもん!」
「はいはい未満児のお兄ちゃんだもんな〜お前一人っ子だろ?」
「いもうとほちいなぁ〜かむいンとこ、かぐらいるもん!ねぇ〜父ちゃんどーちたらできるの?」
「…………そうだな」


土方先生がウチに来てくれたら、出来るかもな?



銀時は指示器を左に出してハンドルを切らながら、そう呟いた。





まだ土方が銀時に嫌われていると思っている、そんな冬の日のこと。










どんとはらい



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